第4話 シャベルvsシャベル

 落ちる。

 大量の雑魚敵から逃げ込んだボス部屋が、まさか落下ダメージを受ける程下にあるとは。

 それに。

 最初の洞窟にいるボスが、まさか俺とを持っているとは。


 ボスの見た目は、道中にいたモグラと実に酷似している。

 違うのはサイズと、自慢の爪だ。

 第一に、そのボスは巨大だった。間違いなく2メートルは超えている。

 ずんぐりむっくりとした巨体で直立しているのも、威圧感を増している要因の内の1つだろう。

 

 そして、ヤツは。

 あろう事か、俺と同じくシャベルを持っているのだ!

 しかも!両手に!

 この時点で俺は負けている。なんかもう精神的に勝てる気がしない。


「いや、最初の洞窟のボスにしてはイロモノ過ぎるだろ!?」

「……私が初めて来た時は違うボスだったんだけど……もしかしてこのゲーム、ボスもランダムだったりする?そんな筈はないんだけど……」

「カプリスにも知らなかった事があるんだな、なんか安心した」

「そりゃそうですよ!?私を何だと思ってるんですか」


 さて、雑談している場合ではないな。 

 問題は目の前のボス。少なくとも、あの巨体に殴りかかる度胸はない。

 距離をとって土の弾丸を撃ち込む。

 これこそが、今の俺にとれる単純明快な最適解だろう。


 ボスが前屈みになる。

 どう見ても攻撃前の準備体制だろう。

 あの図体だ、遠距離攻撃はない……と、思いたい。

 この手のボスがやるのはどうせ突進だろうし、横に走りながらシャベルを構える!


「”アイテム・キャノン”!」


 シャベルの先に魔法陣が描かれ、ただの土が弾丸へと姿を変えて打ち出される。

 ––––––––命中した。

 

 敵の体力を知る手段が無いのでどれほど効いているかは不明だが、最低でもスライムを一撃で倒せる火力はある。

 手持ちの土が尽きるよりは早く、あのモグラを倒せる筈だ。


「じゃ、もう一発!”アイテム・キャノン”!……動かないな、あのモグラ」


 何かバグでも起きているのか?

 まあいい。動かないなら動かないで、一方的に魔法を撃ち込むのみだ。


「”アイテム・キャノン”!”アイテム・キャノン”!”アイテム・キャノン”!……もう言うのも面倒だな。普通に撃つか」


 スキル名を叫ぶのも、走りながら撃つのも面倒になってきた。

 人間の飽きが来るのは意外にも早いもので、俺はすぐに作業的に魔法を撃つようになってしまった。

 

 間違いなく、俺は油断していた。

 動かない敵。まだまだある残弾

 この魔法がMPを使うものでない以上、MP切れという魔術師あるあるの敗因もない。

 それに、もしボスが動いても。

 

 そう、たかを括っていた。


 瞬間、ボスの周りに風圧の様なオーラが出現する。


 そして、俺はのだ。


 初めてのゲームオーバーに、思考が数秒間止まる。

 このゲームにデスペナルティはない。

 ゲームオーバー時の画面も簡素なもので、真っ暗な画面に死因が表示され、リスポーンか終了かを選ぶ、というものだけだ。


 当然選ぶのはリスポーン……なのだが、やはり納得がいかない。

 最初のボスが、あれ程高速な動きで即死させてくるだろうか?

 

 あれは達人の動きだった。

 高速で、無駄がない。

 

 それも、剣ではなくで。

 あのモグラは多分、前世は居合の達人か何かだったのだろう。


 悔しい。 

 シャベル使いとして、あのモグラには勝てない。


 リスポーンした先の草原に倒れ込みながら、無力感に打ちひしがれる。

 俺は、弱い。


「あ、いた!……何で寝てるのか、は聞かないでおくけど……」

「カプリス!?なんだ、もう倒したのか?早かったな」

「いや、それが……」

 

 珍しい事に、カプリスは少し言い淀んでいる。


「私もんだよ、あのモグラに」

「マジで!?お前、前ちょっと自慢してただろ。自分がこのゲームでトップクラスに強いとかなんとか。嘘だったのか?」

「違いますー。……いやホントに、強いからね?」


 この手の話題は、否定すれば否定する程怪しくなるものだ。

 まあ別に、俺は彼女の言葉を疑っている訳ではない。

 長い間一緒に様々なゲームを遊んできた仲だし、彼女のプレイヤースキルの高さも、ゲームにだけ発揮されるストイックさも重々承知している。

 

 対する俺はというと、どんなジャンルのゲームでもそれなりにやり込むが、どんなジャンルのゲームも下手。

 その上で、負けても悔しがりながら楽しめるタイプの人間なので、どんなゲームも割と長続きするのだ。


「あのモグラ、絶対最初の方の洞窟に出る敵じゃない。1ヶ月前にレイドイベントがあったんだけど、それの最大難度のヤツよりも強かった」

「……って事は、バグか?」

「じゃない?流石にこれはおかしいし……あ、通知。”緊急メンテナンスのため30分以内にログアウトして下さい”だって」

「ビンゴ、だな。仕方ない、今日はこの辺で解散するか」

「だね、もう深夜だし。おやすみー」

「ああ、じゃあな」


 一言別れの挨拶を済ませ、メニューからログアウトを選ぶ。

 

 

 

 










  

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