第2話 スキル入手はシャベルと共に
集中しろ。
全力で祈れ。
何なら、土下座でもしながら使った方が良いんじゃないだろうか。
いやまあ、こんなに勿体ぶってもオーブからいいスキルが出る訳じゃない訳だし、さっさと使ってしま––––––––
「ストップ、待って、今シャベル持ってるでしょ!?杖に持ち替えてからオーブは使って!?」
「え?……これ、武器種も参照してスキルが出る、みたいな……」
「そうそう、私がいろんな武器種を使って検証したからね、間違いないよ。杖を装備しないと魔法は出ないから、気をつけてねー」
「……あ。手遅れ、だな、多分」
視界の端に、スキルを取得した事を知らせるウィンドウが現れる。しかも3つ。
……いや、もしかしたら、無意識のうちに杖を装備していたりするかもしれない。
全力で祈りながら装備欄を見るが、どう見ても装備しているのは何の変哲もないEランクのシャベル。
見たくない。
スキル欄を見たくない。
万が一にも、取得したのが土木作業が高速化される類いのスキルだとしたら。
俺の今後が、よりにもよって。VRMMOから最も遠い場所に固定されかねない。
腹を括り、入手したスキルを見る。
(”土を掘るもの”Eランク、”採集上手”Eランク……これを活かせる
俺の取り柄である切り替えの速さでもって今後の身の振り方を考えながら最後のスキルを見る。
ランクはD。それに、この名前は間違いなく攻撃系のスキルだ。
俺の想定していた物とは違うだろうが、最低限戦闘も出来る……筈だ。
「なあ、カプリス。このスキルってどう思う?」
「このって言われても……他プレイヤーからはメニューは見えないから」
「そうだったのか、すまん。”アイテム・キャノン”って名前のランクDスキルなんだが、どうだ?強そうか?」
「んー、初めて聞いた。キャノンって付いてるなら火力は高そうだけど……アイテムでしょ?使う度に素材とか武器を消費しそうだし、使い勝手が悪そう」
「だよな。ま、せっかくだし使ってみるか」
ひとまず、スキル説明に目を通す。
ダメージは……表記なし。クールタイムは1秒。
弾薬ポーチのアイテムを打ち出す、と書いてあるが……
「んー、弾薬ポーチって何だ?見た事がないな……」
「弾薬ポーチ?装備欄の端っこの方にあるんだけど、分かる?矢とか、魔法の触媒とかはそこに入れて使うの」
なるほど、アイテムを弾として打ち出す魔法……魔法?という事か。
それでは早速、適当なアイテムをセットして使ってみよう。
––––––––と、意気込んでいたのだが。
アイテムを持っていない。
そりゃそうだ、考えるまでもない。
このゲームを始めてから、俺は一度もモンスターを倒していない。
やっていたのはアイテムの手に入らない土掘りだけなのだ。
だから、”土を掘るもの”なんて訳の分からないスキルを引き当てる。
(そういえば、アイテム・キャノン以外のスキルは見てないな。採集上手の方は……採集時の入手アイテムが増えるだけか。あると便利そうだ。土を掘るものはまあ、土を高速で掘れるとか、そんなもんだろ……って、はあ?)
地面を掘った際に、アイテム”土”を入手する。
それが、”土を掘るもの”の効果らしい。
うん、間違いなく通常なら要らないスキルだ。
そもそも、普通は発動すらしないパッシブスキルだろう。
だが、今の俺にはこの上なく合致している。
アイテムを打ち出すスキルと、無限にアイテムを入手できるスキル。
悠長にスキル欄を眺めている場合ではない。
シャベルを構え、慣れた構えで地面に突き立てる。
「ちょ、急にどうしたの!?もう地面は掘らなくて良いからね、大丈夫?もしかして、気でも狂った?」
「狂ってないからな!?入手したパッシブスキルに面白そうなのがあったんだよ。その効果で……よし。多分見てもらった方が早いな、ちょっと待っててくれ」
装備をシャベルから初期装備の木の杖に。
弾薬ポーチにさっき掘った土を詰め込む。
スキルの使い方はチュートリアルで学んだ。……使おうと思えば使える、程度のふわっとした物だったが。
カッコ良く魔法を使う為の詠唱は……この魔法なら要らないだろ、多分。せいぜいスキル名を叫ぶくらいか?
「それじゃ……”アイテム・キャノン”!」
構えた杖の先から魔法陣が描かれる。
放たれたのは土の弾。
打ち出された弾はただの土とは思えない速度で空を切り、すぐに視認できない所まで飛んで行った。
「おお……凄いなこれ、なんか強そうだ」
「うん、これなら全然戦えそうじゃん!……で、何でさっきは急に地面を?」
「土を掘ってたんだよ。さっき手に入れたスキル、地面を掘ったら土が手に入る様になる物だったんだ」
「へー……使いどころ、限定的すぎない?そんなスキルまであったんだ……」
全くもってその通りだ。
そもそも、このゲームの仕様が初心者お断りすぎないか?
カプリスが先にこのゲームをやっていなければ、俺は生命力に全振りしてスキルオーブを使っていた所だ。
……待て。
カプリスが居なければ、シャベルを持った状態でスキルオーブを使う事もなかったのでは?本来ならしっかり杖を持って、魔法も手に入れている筈なのだ。
それに、生命力に振った状態で手に入る魔法も普通に強そうだ。
回復魔法とか、ライフドレインとか。妄想でしかないが、多分楽しい筈だ。
「俺もせっかく戦う手段を得たんだし、そろそろ戦闘に行きたいな。このゲームを始めて1時間、土を掘るだけで終わるのは流石に嫌だ」
「だよね。じゃ、洞窟にでも行ってみよっか!初心者用のダンジョンなら、この辺には沢山あるんだし」
「了解。……あ、ちょっと待ってくれ」
「何?」
ダンジョンに行く前の準備でする事なんて、決まっている。
「戦いの前には
「あー……ご自由にどうぞ」
俺はおもむろにシャベルを取り出し、地面に突き立てた。
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