アークトゥルス・オンライン〜人生初のVRMMOをシャベルで無双しようと思います〜

不明夜

第1話 VRMMOが送る穴掘り刑体験会

 小鳥のさえずり、小川のせせらぎ。

 見渡す限りの草原の美しさに息を呑む––––––––

 だけの余裕は、今の俺には無かった。


 どうして。


「どう?レベル、どこまで上がった?」

「……今はレベル3だ。……もっと他のレベリング方法って無いのかよ」

「残念な事に、雑魚敵を狩るよりこっちの方が早いからねー。ほら、手は止めない!ポーションが勿体無いでしょ?」

「……何故俺は、ずっと土を掘っては埋める苦行を強いられているんだ?念願のVRMMOでやりたかったのはこんな拷問じゃ無いんだが!?」


 本当に、何故俺はこんな事をしているのだろうか。


 * * *


 数年前から現在まで脈々と続くVRMMOブームに乗っかったこのゲーム、アークトゥルス・オンラインは、約二ヶ月前に発売されてから本日まで常時品薄となっており、手に入れる事の出来なかった者たちの間では既に扱いが伝説へと変化している。

 そんな本作をプレイするために、俺は弛まぬ努力を重ねてきた。

 常に複数のオンラインショップに張り付き、近くの家電量販店に入荷されたとあればすぐに駆け付ける。

 そんな生活を続けた末、俺は昨日遂に入手する事が出来たのだ。


 期待と不安に胸を躍らせ、既に本作をプレイしていた友人とゲーム内で待ち合わせをし、自身の趣味を詰め込んだキャラメイクも済ませ、そして。

 気付いた頃には、土を掘っていた。

 まだ一度も戦闘していないのに。

 魔法を使うのを楽しみにして、初期装備も魔術師用の物を選んだのに!


 俺の友人、白川奏多しらかわかなたことカプリスが渡してきたポーションは開拓者のポーションと言うらしく、土を掘ったり木を切ったりといった行動で経験値が手に入る様になる物らしい。

 序盤の敵をちまちまと狩るよりは経験値効率も良いだろうし、確かに理に叶っている。

 ……が、それとこれとは別だろう。

 バトルの基礎でも教えて貰えるのかと思い、上機嫌で着いて行った初心者にシャベルとポーションを渡し、一言”掘れ”なんて言い放って心は痛まないのか?


 一分、二分と時間が過ぎて行く。


「良い加減、レベル6まで上がった?」

「横から見てるだけの癖して、やけに偉そうだな。肉体的な疲労がなくとも、精神的にはかなりつら––––––––お、レベルアップ。これで6だが、良い加減この苦行から解放されるのか?」

「解放されるよ?……多分」

「そこは断言してくれ」


 視界の端に、レベルアップを伝えるウィンドウが表示される。

 うん。なんだかんだ、レベルの上がる瞬間ってのはゲームの醍醐味だよな。

 そんな貴重な瞬間を、穴掘りでもって実に四回も体験してしまったのは悔しいが!


「よし!じゃ、ステータス画面を開いてみて。最初にもらえたポイントも合わせてステータスに10ポイント振れる筈なんだけど……どう?」


 言われた通りにメニューを開き、ステータスの項目を見る。

 画面には、つい先程上がったばかりのレベルもしっかり表示されていた。

 俺の入力したプレイヤーネーム、バランも表示されている。名前の由来は当然、弁当を仕切っている緑のアレだ。

 このゲームでは別の名前を使うつもりだったのだが、長年様々なアカウントでこの名前を使っていたせいで、新しい名前を考えるという行為が直前になって面倒になってしまった過去がある。

 

 ポイントを振り分けられるステータスは6つあり、それぞれ生命力、精神力、筋力、魔力、敏捷、幸運と書いてある。初期値が10な事は理解できたが、それぞれのステータスがゲームにどう影響するのかは、全くもって知らない。


「ああ。ちゃんと10ポイント分あるが、やっぱり最初は生命力か?多分、HPが上がるやつだろ?HPはどんなゲームでも大事だしな」

「んー……バラン、どんなビルドを作りたい?」

「この初期装備で分かるだろうが、当然魔法使いだ。というより、VRMMOで近距離戦闘ができる気がしなかったから消去法的に選んだ訳だが」

「なーるほど。じゃ、とりあえず魔力に全部振っちゃって。というか、魔力が60になるまでは他のステータスは無視でいいよ」

「え?いや、流石にそれは極端すぎません?自慢じゃないが、俺は下手だぞ?」


 フルダイブ形式のVRMMOをするのは今回が初めてだが、ゲーム自体は様々な作品を遊んできた。

 ……が、プレイヤースキルにはてんで自信がないのだ。

 しかも、現実での身体能力も間違いなく人類の中で下から数えた方が早い。

 ゲーム下手と運動音痴、両方が合わさるVRMMOを低HPの状態で遊ぶのは間違いなく至難の業だ。


「ごめんごめん、ちょっと長くなるけど説明させて。まず、このゲームはスキルが超重要なの。そして、そのスキルはスキルオーブを使ったら手に入る。ここまではいいよね?」

「大丈夫だ。スキルオーブは……最初に3個貰えたやつだな。お前が今は絶対使うなって言ってたから、アイテムボックスに入ってる」

「スキルオーブで手に入るスキルなんだけど、能力値に応じてランダムに決まるんだよね。で、初期値だと最低ランクのEしか出て来ない。Sランクのスキルが出るのが60からだから、それまでは他の能力を上げない方がいいって訳」

「やっぱり、Sランクは強いのか?」

?スキルのほとんど全てが未確認だから、実際どのくらい強いかは分からない。今強いって言われてるのも、大体がBかAランクの物だしね。ぶっちゃけ、普通にプレイする分には特化しなくても十分遊べるし」


 え、嘘だろ?

 と言うか、俺に普通にプレイさせる気は無いって事なのか?

 ……普通のプレイヤーが開始早々街を出てやる事は、穴掘りではなくモンスターとの戦闘なんだろうから、今更だけども。


「今までの話を聞く限り、能力値が20より上なら最低ランクじゃないのが出るって事なのか?」

「ご明察!20からはDランクのも出る筈だから、最初にスキルオーブは使わない様にって言ってたという訳ですよ。どう?分かってくれた?」

「分かりはしたけど説明不足だな!最初っからそれだけの説明が欲しかった!」

「まあまあ……サクッとポイントを振っちゃって、そして初めてのスキルオーブをやっちゃいましょうや。ね?それが終わったら戦闘にも行けるからさ」

「はあ。ま、やってみるが」


 ステータス画面から魔力の値にポイントを振り、晴れて魔力値は20となった。

 そして、アイテムボックスの画面で輝く青色のオーブをタップし、使用する。


 ランダムでスキルが手に入る。

 そう、ランダム。

 即ち、ガチャ。


 念願のVRMMO、その幸先を占うにはこれ以上無い絶好のチャンスだ。

 








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る