第11話

 逃げた。


 意外と逃げ切れるもので。


 追っ手をかいくぐって。


 いつもの学校まで。来れた。屋上まで登る体力はない。階段近く、下駄箱で倒れ込む。半分外で、半分校舎内。星がきれい。


「どこやられた?」


「右肩だね。血が止まらないからたぶん深い。そっちは?」


「脇腹と左腿。脇腹は軽傷で腿がやばい」


 夜の闇が、良い具合に互いの傷を隠してくれている。


 でも、さすがに何もしないわけにはいかない。


「この傷なら、失血までに組織の上の人間は殺してこれる」


「俺は動けないから、ここから通信端末経由で警察の上のやつらに噛みつくぐらいだな」


「いけるの?」


「微妙」


「手伝おっか?」


「いや、いい。こっちは手ずから殺すんじゃなくて、市民に殺させる形が理想だから」


「そっか」


 はやく行かないと、血を失って時間が来る。でも、少しでも長く彼の隣にいたい。アンビバレンスな一択。


「行けよ。動かなければ俺もいくらかもつ。さくっと殺して、さくっと戻ってこい」


「やっぱ。無理だったかな。おたがいに」


「それは分からんだろ。ドラマ的にいえば、補正でなんとかなるレベルだ」


「そっか」


「いやわからん。適当をいった。ごめん」


「いや、わかってる。大丈夫」


 屋上。彼の姿と、夜空を目に焼き付ける。


「また、屋上で。わたしが戻ってくるまで生きててね」


「善処する」

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