第6話

 古典的な策だが、これが見事に、はまったらしい。


「焼きそばパンをよこせ」


 彼女の胃袋を掴んだ。


「情報と引き換えだな」


「警察の犬が」


 まぁ、間違ってはいない。使いつぶされて、いつか路傍にうち捨てられる、犬。それが自分。


「欲しい情報ならなんでもやるよ。焼きそばパン引き換えでなくともね」


「ずいぶんと好意的だな」


 彼女が焼きそばパンのラップを開ける。


「腐ってるし」


「そんなばかな」


 長持ちタイプだぞ。ラップが甘かったか。


「いや、食い物じゃなくて。わたしの義賊組織が」


「あ、ああ。そっちね」


 よかった。安心した。ここ数年でいちばんどきどきした。


「わたしが継ぐから、まぁ、あれなんだけど。上の人間は金と出世と、警察の排除しか考えてない。下の人間は義賊に酔ってるだけのばか」


「あはは」


 同じようなもんだな。


「こっちも同じだよ。だから俺のような若者ガキでも前線に出される」


「互いに、つらい身分だね」


「そうだな。つらさをものともしないあたりが、いかにもどうしようもない」


「うん」


 なんで敵と意思疏通してんだか。

 それでも、なんか。この屋上が、心地良いと思うようには、なった。

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