第5話

 恋愛アニメを一切見ないので、ちょっと答えに窮してしまった。


「ほれ」


 投げつけられる焼きそばパン。打ち返す。


「おい」


「この前の分で足りてるわよ」


「そうか。今日は2個食えて幸せだ」


 彼が、焼きそばパンを食べ始める。

 この学校の焼きそばパンは、御多分の例に漏れず争奪戦。基本的に売店のひとに賄賂を渡して、取り置きしてもらうのが筋。この世界の縮図が学校なので、賄賂も盗みも有効中の有効。そんな世界。そんな学校。

 この男も、そうやって賄賂を使う側の人間ということだった。


「いくら払ったの?」


「あ?」


 焼きそばパン食うのをやめろ。わたしが喋ってんでしょうが。


「焼きそばパンの価格か。考えたことなかったな」


 賄賂で取り置きだから無料ってわけか。じゃあいくら袖に握らせたんだよ。


「パンは賞味期限のいちばん長いやつだから毎回値段違うし、焼きそばに至っては具がなぁ。食いたいものが違うし。作り置き保存だし。全体500円ってとこかも」


「え。待って」


「なに」


「売店で買ったんじゃないの?」


「昨日食って分かんなかったのかよ」


 食うわけないだろ。敵の買ってきた食い物だぞ。薬入ってたら一発であの世だし。


「俺の自作だよ。まだ食ってねぇなら返せ。賞味期限長いパンだから全然食える」


「いや全然食えないでしょ。一日も経ったら」


「食えるんだよ。ちゃんと作ってるから」


 鞄のなか。そういえば捨てていなかった。

 焼きそばパン。

 本当に食えるのかしら。

 見た目は大丈夫そうだけど。


「毒は入ってねぇよ。先に俺が食ってやろうか」


「あ」


 半分にして、目の前に。


「どっちか選べ」


 オーソドックスな二択。


「こっち」


 食べてみる。


「おいしい」


「よかった。おまえのアニメみたいに可もなく不可もなかったら同類になるところだった」


「同類ってなによ同類って」


 盗賊と警察だから、まぁ。同類は同類か。

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