旅の終わり
ミャンファは、真っ白な猫として目を覚ました。小さな女の子が、包み込むようにしてミャンファを抱いていた。
「しろちゃん、かーわいい。ひいおばあちゃんも、見て」
女の子は、老婆の前にミャンファを差し出した。老婆は、その頭蓋の中にあんまり老いが溜まり過ぎたせいで、世界をぼんやりとしか認識できなくなっていた。
差し出された子猫は真っ白でふわふわの毛を持っていて、老婆は遠い日の何かをおぼろげに思い出しかけたのだけれど、記憶は粉雪のように淡く溶けて消えてゆき、いかなる像も結ばない。
ミャンファは一声、たった一声鳴いて、老婆の胸に頬をすりつけた。老婆はぼんやりとしたまま、その小さくて温かな生きものを抱き締める。
老いさらばえた彼女の胸からお腹にかけて、まるで元からそこにはめ込んであったかのように、ミャンファは丁度よく納まった。そうして、ミャンファの長い旅は終わったのだった。
そして今、ミャンファはひとりの人間の老婆のそばで、その弱弱しい、規則的な呼吸の音を聞いている。
時刻は明け方で、まだ誰も置きだす気配はない。老婆の心臓が、家族の起床を待たずに止まってしまうことを、ミャンファは知っている。
ミャンファは、老婆が眠っているベッドの上に飛び乗り、膝のあたりに寝転んだ。そして、彼女の心臓が止まるまで、じっと膝を温めていた。
やがて家族が起きだしてきて、老婆が、その波乱に満ちた人生を終えたことを知る。
その時にはもう、真っ白でふわふわの猫は、家のどこにもいなかった。戸締りはしっかりとしていたのに、まるで雪が溶けたかのように、忽然といなくなっていた。
ふたつの喪失に泣きじゃくる女の子を、大人たちは慰める。きっとしろちゃんは、ひいおばあちゃんについていったんだよ、と。それはあながち間違いではなかった。
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