ロン


 海を渡ったのだから、この街にユキエがいるはずだとミャンファは思っていたのだけれど、どこを探しても、ユキエは見付からなかった。


 毎日のように港をさまよう猫が、人間の目から見てもあんまり寂しそうに見えたので、海辺の人々はロンリーちゃん、と猫を呼んだ。そしてそれが短くなって、ロンというのがミャンファの新たな名前となった。



 数年が経ったある夏の日、霧の濃い夜に、ミャンファは疲れて海辺に寝転がった。寝転がったまま、海を見ていた。


 ここに至るまでに、いくつもの生を費やした。あの日、ユキエと別れて、彼女を追い掛け始めてから、随分と時間が経っている。

 いくら人間の命が猫より長持ちするとはいえ、ユキエももう子供ではないだろう。ミャンファが多くの名前を貰ったように、ユキエの名前も変わっているかもしれない。


 猫は九つのたましいを持つが、人間はいったいいくつのたましいを持っているのだろう。もしかして、もうたましいを使い切ってしまっているのではないか。


 海を見つめながら、そんなことを考えていた。それでも、旅をやめるつもりは少しもなかった。ユキエの膝の上に辿りつくまでは……。



 朝になっても、ミャンファはそこを動かなかった。すっかりくすんだ灰色の体からは、もうたましいは抜け去っていた。

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