ジリィ
船がいよいよ目的地に近づいたその日、それは起こった。
船体は大きく傾ぎ、ミャンファは床を転がった。いつもならばミャンファを見れば顔をほころばせる人間たちが、恐ろしい表情で走り回っている。悲鳴と怒号と、野犬のうなり声のような低く恐ろしい音とが響き渡る。
ミャンファはよろよろと歩き、部屋のすみに身を隠した。恐ろしいことが起こっているうちは、なるべく動かず鳴かずにいる方が良い。
しかし再び船体が揺れて、ミャンファは堪らずに一声鳴いた。すると大きな手がミャンファを捕まえて、麻袋の中に放り込んだ。ミャンファをよく可愛がっていた船員のひとりだった。
ミャンファは少し暴れたが、麻布越しにミャンファをなだめる声がとてもおだやかだったので、暴れるのをやめて麻袋に爪を立てた。
「ジリィ、良い子だから、じっとしておいで。良い子だから……」
陸に上がったとき、ミャンファは麻袋の中ですっかり疲れ切っていて、しばらく袋から這い出せなかった。
ようやく顔を出したとき、ミャンファが見たものは、港を間近にして沈没した船の残骸と、ミャンファを助け出した男の横顔だった。
ミャンファが濡れないように、麻袋を肩に担いで、陸まで泳ぎ切ったのだろう。
ミャンファは男の顔を舐めた。何度も何度も舐めたが、男はぴくりとも動かなかった。
ミャンファは男の顔をもう一度舐めて、そしてその場をあとにした。
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