酒飲みと猫


 ミャンファには、人間というものが分からなかった。残虐性に満ちているものもいれば、弱いものに対する慈愛に満ちているものもいる。

 今、ミャンファを抱き上げている男は、その両方を持っているようだった。



 ミャンファは白黒のぶち模様を持って生まれ、ひとりの男の腕に抱かれていた。

 男は酷い酒飲みで、一年のうち酔っぱらっていない時間の方が短かった。そして毎日のように誰かを殴り、誰かに殴られていた。ミャンファはその男のねぐらで飼われていた。


 本当のところ、前の生があんまり酷かったので、ミャンファは極力人間には近寄るまいと決めていた。

 いくら猫に九つのたましいがあるとはいえ、痛いものは痛いし、苦しいものは苦しいのだ。


 けれど酒飲みは、ミャンファが逃げ出すと「猫ちゃん、猫ちゃん」と泣きながら路地裏中を探し回った。

 その声の悲愴さといったら、さしものミャンファも彼を憐れんで、物陰からそっと姿を現すのだった。酒飲みはミャンファを見付けると、優しく抱き締めて「猫ちゃん、猫ちゃん」と頬ずりをした。



 ミャンファには、本当に、人間というものが分からなかった。

 彼が誰かを殴る時、その目はミャンファを火で炙った、あの男の目とそっくりだった。しかし同じ人間が、ミャンファに対しては一切手を上げず、ミャンファの嫌がることは何もせず、ミャンファを心から慈しみ、愛しているのだった。


 彼が良い人間か悪い人間か、ミャンファはずっと考えていた。しかし答えが出ないうちに、ミャンファは猫風邪をひいて、そのまま弱って死んでしまった。


 酒飲みは固く冷たくなったミャンファを抱き上げ、「猫ちゃん、猫ちゃん」と泣き続けた。毎日浴びるように飲んでいた酒を一切口にせず、痩せ細り、もうどこにもいないミャンファを探して路地をさまよい歩いた。


 ミャンファはたましいだけになって、しばらくの間、酒飲みのそばを離れなかった。

 やがて酒飲みが足を滑らせ、冷たい冬のどぶ川に落ち、這い上がれないままこと切れるまで、ミャンファはずっと彼のそばにいた。

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