第7話 虜

 翌朝、早くに、徹さんは、港に戻った。

 

 もちろん、愛子は、翌日も優子と一緒に港に向かう。


 遠くに小さく見えても、徹さんの姿は、愛子には明確にわかる。


 スラッとした長身の徹さんの白い制服姿は、凛々しい…


 徹も2人に気付く。


 足速に甲板を降りるのに、またもや愛子には、1コマ1コマスローモーションに見える。


 「徹さん…」


 声にならない声でつぶやく。


 優子が大袈裟に手を振る。


 徹が近づいてくる…


 昨夜の徹の唇が脳裏に浮かぶ…


 優子が

「昨日は、ありがとうございました。」とびきりの笑顔で言い

 徹も笑顔で

「よかった。明日には、呉に出航するから…。出航する前にまた、お会いできてよかったです。」

と愛子を見る。


「呉?」と愛子

「広島の呉です。」

また、ふらつく愛子

「大丈夫ですか…しっかりしてください。私は、石川県小松市の造り酒屋「樽屋」の長男です。何かあったら、そちらに連絡してください。」

 愛子は、涙ぐむ…

「もう、会えないかと思いました」

涙ぐむが、徹の顔は、しっかり見える。

「また、いつか会いましょう。」

笑顔の徹。

この徹の笑顔が愛子を虜にした…


足速に甲板に戻っる徹の姿が、また1コマ1コマスローモーション…




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