第5話 過ち

 実家が造り酒屋で裕福な徹だったが、愛子の家の長屋門を入る時は、恐縮した。周りは、田んぼだか、代々名主の家柄だけあって、門から母屋までが長い。奉公人の身なりは、綺麗とは言えないが、愛子は、戦時中でも食べるのに困らない家の娘だった。


 徹は、愛子の母親に事情を話した。すると、愛子の父親や家長の祖父や祖母、兄家族も加わり、賑やかに夕食をとることになった。

 

 制服を脱ぎ、粗末ではあるが、清潔な着物を出してもらい、徹は、ゆったりとした。徹も北陸の自分の実家を思い出した。やはり賑やかな家だった。徹は、造り酒屋の長男だった。町一番の酒屋だ。商売上手な父と気の優しい母、気立ての良い明るい姉がいると言っていた。流れで酒が入り、徹は酔った。


 今度は、愛子が徹を介抱することになる。客間に通す。


 酔っているのか、いないのか…

 

 徹のしなやかな指が…

 

 愛子の頬を引き寄せる…

 

 徹の長いまつ毛が…


 愛子の顔に近づく…

 

 


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