第二節 感情
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前でトゥシィとイブはなにかこそこそと
話をしているが、その会話に合流する気には
なれなかった。
先ほどの不安が拭えない、からだ。
トゥシィの言動に納得したはずなのに、
そのはずなのに。心がもやもやと晴れない。
てくてくと歩き続けていると自分の方が
歩く速度が速かったみたいで彼らの会話が
聞こえてきた。
「なあなあ、なんで移動したんだ?」
とトゥシィは言った。確かになんで移動したんだろう。
僕は彼らの会話に耳を傾けた。
『そのうちわかるわよ。
あなたもアタシと同じ者でしょ?』
同じ...者?どういうことだろう、トゥシィは
イブと同じ人物ということ.....?
「いや違うわっ!
私ここ初めてだから
よくわかんねーし!?」
『逆にわからないほうが身のためよ。』
「あっそう。まあいいけどさ、
これどこに向かってるんだ?」
『すぐわかるわよ。』
彼らの会話が頭の中を右から左へと
流れていく。
同じ者......?
そんなのがこの空間には
存在しているのだろうか。
気づくと辺りは白い空間から真っ暗に
なっていてトゥシィとイブが止まった。
僕は何事だろうかと
彼らの前を覗くと薄い桃色の扉があった。
イブはその扉を開け電気をつけると、
様々な本が置いてあって
螺旋の本棚達と司書台が中心に置かれていた。
「うっわなんだここ、本ばっかじゃん」
異世界でしか見たことないような
螺旋状になっている本棚が上に続いていて、
果てが見えない。
【すごいたくさんある、何の本なんだろう。】
『ここは心の箱。その名の通り色々な感情や
言葉がしまってある本ばかりだから、
ページを開かないようにね。』
そう言うと、イブは司書台付近の椅子へと
座った。
司書台の上にある資料に目を通している。
感情、言葉.....?言葉がそのままの意味ならば
よくわからないけれども、すごく気になる。
トーマスは「ふーん」とだけ返し、
近くにある本を見つめている。
「え、開いたらどうなんの?」
トゥシィの言葉に僕はこくこくと頷いた。
そしてイブは資料からこちらに視線を向けて、
『試してみればいいわ。でも、後悔先に立たず
とだけ覚えときなさい。』
と返した。
それを聞くと体が強張って、
本の中身を見るのが怖くなってきた。
「うっす、やめとくわ」
【僕もやめておくね.....】
トゥシィも同じ気持ちだったみたい.....
そんな僕達にイブは
やれやれ...といった感じだった。
『とりあえず、ここの部屋及び
この空間について説明するわ。』
イブはこちらを向きつつそう言った。
『この部屋は人の感情が散らばってる
いわゆる精神から構成されているの。
だからちょっとした行動や現象で
崩れて元に戻れなくなる』
また感情が出てきて、今度は精神.....?
ここは人の身体の中ということなのだろうか、
「え?ここにいるの結構やばくね?」
僕が思い詰めているとトゥシィがそう言った。
彼は体が強張っているように見えた。
『大丈夫よ。
今まで一度も崩壊したことはないわ。
でも崩れかけたことはあるから
予測でしか話せないけれどね。』
大丈夫かな.....
地震は体験したことあるけど、
逃げれそうにない空間で地震のような災害は
救い道がほとんどなさそうだから
とても心配だなぁ.....
一応聞いてみようかな。
【ここはどういう時に崩れるんですか?】
と僕は聞いた。
イブは少し考える様に顎に手を当てて、
口を開いた。
『一度の崩壊が起きたのは、』
トン トン トン
何かの音が外からする。
「待て、外から音がする」
かすかな足音のような音がトゥシィにも
聞こえていたようだ。
トン トントントントン
すごいスピードでこちらに近づいてくるっ____
バンッッ
扉が思い切り開かれて僕は目を閉じた。
誰かが僕を包んでくれた感覚がした。
[あ、いたー。どっかいくなら教えてよねー]
怠そうな男の人にしては少し高いの声。
僕は恐る恐る目を開けると、
そこにはイブと同じくらいの
高さの男性がいた。
深い青色のカッターシャツに
黒いハーネスベルトとワイドパンツ、
ハーフアップで少し藍色がかっている
黒髪の男性で、こちらを見ながら
ズカズカと歩いてきた。
『...ドアぐらい静かに開けられないの?
ルイス』
イブは呆れたような顔をして、
歩いてくる男性にそう言った。
[だってぇ俺が開けたらこうなるもん]
彼は気怠げそうにそう言っているが、
思えばかなり大きな音だった。
いつか扉が壊れそうだ。
『もう少し勢いを弱めなさいって
言ってるのよ。』
[ごめんごめーん。
んで、トーマスと縁莉であってる?]
僕たちの前で止まり、顔を覗き込んで
尋ねてきた。
また僕の名前を知っている人だ。
今度はトゥシィの名前も知ってる、
ここはプライバシーが筒抜けなのかな.....
「あってる」
【あってます】
僕達は返事をした。
[俺はルイス。こいつの双子のような
ものだよー]
その男性、ルイスはイブを指を指して言った。
「双子のようなもの...?双子じゃないのか?」
トゥシィも同じ事を考えていたみたいで、
双子だとはっきり言わなかったことに
僕も疑問を抱いていた。
[俺はこいつから『こいつとは兄弟の様に
育っただけよ。』
とイブは彼の言葉を遮る様に言った。
何か少し引っ掛かるが
そう言われると納得する。
[え〜、今俺が話してんのに酷くね〜?]
とルイスは子供の様にプンプンと怒っている。
180cmぐらいの男性が口を膨らませて
怒っている姿はなかなかに変わった光景だ。
『あんたは語弊を招き得ない
発言しかしないからでしょ。』
[理解できないやつが悪いじゃん]
『言い方に問題があるから
あんたの言葉は理解しにくいのよ。
もう少し考えてから喋りなさいな。』
[は〜い]
確かに2人は兄弟の様に何気なく
会話をしている。
とても仲が良さそうだなぁ。
ぼーっとその光景を眺めていると、
トゥシィが肩をトントンと叩いてきた。
「なあなあ縁莉、この本どこかで
見たことないか?」
僕はトゥシィが持っていた本を眺める。
なんの変哲もない蜂蜜色のカバーの分厚い本。
特に記憶に触れるような本ではなかった。
【ううん。見たことないかな、】
「そっか、ありがと。」
そう言うとトゥシィはジーッと
その本を眺めている。
何か思い入れがあるかのように
本を離す気配はなかった。
イブ達の方を振り向くと
2人は先程からずっと話している。
イブはかなり真剣な顔をしているけれど、
ルイスは相変わらずふわふわとした様子で
話していた。
そして区切りがついたのか
2人はこちらに歩いてきた。
『さっきはルイスが乱入したせいで
聞けなかったけれど、2人はこの空間から
出たいのよね?』
【はい】
「そうだな」
いつの間にかトゥシィはこちらに
来ていたようで僕の後ろにいた。
『この空間から出るには2つ方法があるわ。
でも1つはおすすめ出来ない方法だから
もう1つを確実に行くつもりよ。』
[そーそー。もう1個の方法は
まじやべーときにしか使っちゃだめだからさ]
2人はそう言うと扉の方へと進んだ。
[善は急げって言うし、さっさと行こーよ]
『ルイスの言う通り、急ぎましょう。』
「わかった、縁莉行こう!」
【うん】
僕達は扉へと足を進めた。
やっぱり扉の外は暗かった。
最初に気づいた時に見た白い空間と真反対の
黒い空間、というより廊下が長く続いている。
でもこの空間は何故か明かりがなくても
足元が見える不思議な空間だった。
[やっぱりここ暗くね?
歩きにくいから俺ちょー嫌い]
ルイスはうぇ〜、きもちわりぃなど
ぶつぶつ言いながら前へと進む。
この暗闇に慣れていそうなのに、
少し意外に感じる。
そんなルイスに対し、
イヴは黙々と手にランプを持ちながら先頭を
歩いている。
いつの間にランプを出したのかな。
というよりランプあるんだこの空間に。
などと前にいる2人を眺めながら
考えていると、
ふと後ろにいるトゥシィが気になった。
先程からトゥシィの声を聞いていない
気がして、耳がとても寂しく感じる。
そう思った僕は後ろを振り向いた。
いるはずのトゥシィは何処にもいなかった。
第二節 閉幕
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人格のtraveler @ShobirDm
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