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 ハノ、無事なのか。


 暗闇とトロール二体を相手にハノの生死を確認することはできず、戦いという名の防戦一方で気が付けば部隊生存人数は十人を切っていた。

 

「シルファ、視線をむやみに逸らすな‼ 目の前の怪物だけを見ろ‼」


 隊長がそう叫んだ時にはもう遅い。シルファの背後にトロールが立ち、曲刀をふりおろした瞬間であった。


 目線をそちらに動かし、攻撃をよけるため体を動かそうとしても動かない。考えだけが先を行く。


 動け、動け、動け、動け、こんなところで死ぬわけにはいかないんだ‼


 この時、物の数秒。シルファの体感した長い数秒、彼は諦めない気持ちをもちながらも死を悟っていた。


 『ブォン‼』


 風の突き抜ける音。


「いったっつ」


 体が動き尻餅をつき、意識がハッキリする頃には真後ろにいたトロールが吹き飛ばされ、目の前にはハノのもとにいたであろう三体目のトロールの頭がシルファの足元に転がる。


 視線を上に上げシルファがそこに見たものとは。


 暗闇でもはっきりと分かる。巨大な肢体の上に青白い光を放ちながら白い煙を上げるごつごつとしたブロンズボディー。


「ジャンクマン……」


 ハノが起動させたジャンクマンが三体目のトロールを一瞬で片付け、死体からもぎ取った頭を自分の真後ろにいたトロール一体に投げつけ数メートル飛ばしたということに気が付いた。


 ハノ……起動で来たんだ。


「何だあの化け物は」


 隊長も他の皆も困惑している。戦闘兵器だという事情を知っているのは俺とハノだけ、ここから先は俺達が邪魔になる。

 

「隊長、皆、俺を信じてこの場から急いで引け‼」


 シルファの言葉を聞き、生死という緊張から解放されたかのように皆武器を捨て逃げに徹する。


 その場にはシルファと部隊長だけが残り。


「シルファ‼ お前も逃げるぞ」


 隊長はシルファの腕を引き、連れて行こうとするがシルファは動かない。ハノを見捨ててこの場を去るわけにはいかないのだから。


 不安げな表情で立ち尽くすシルファを見て、隊長は背中を強く叩く。


「俺も残る。たった一人の兵士でも逃げないのなら、隊長の俺が逃げるわけにはいかないだろ」


「おっちゃん……」


「大丈夫、ハノは無事だ。だがここに残る以上油断を怠るなよ」


「……はい」


 涙をこらえ、ジャンクマンが勝つことを祈りながら真っすぐ目線を向けた。

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