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「……お」
体を大きく揺らす。この家に住んでいるのは僕とシルファの二人だけ、消去法でシルファが起こしているということが分かる。
だがいつも自分より遅くに起きて仕事に行くそんなガサツな彼がこんな朝早くに何故僕を起こすのか。
寝ぼけた頭で彼の必死に叫ぶ言葉を聞き取る。
「起きろハノ‼ モンスターが……トロールが降ってきたぞ‼」
え?
その言葉で寝ぼけていた頭が一気に覚醒する。
本当なのかと聞き返そうとしたが、シルファの表情は冗談や聞き間違いではない、本気だ。
僕は急いで飛び起き、着替える間もなくシルファと共に家の外に出る。
外に出ても暗闇ですぐに状況が理解できなかったが、自分の職場、ゴミ捨て場の方の明かりが無いことやそちらから人々が走ってきて逃げていることに気づく。
こんな事、今までなかったのにどうして。
動揺しているハノに対し、シルファは肩をがっしりとつかみ目線を合わせると。
「いいかハノ、今隊長たちがトロールを相手している。お前はとにかく逆方向へ逃げるんだ。俺は……隊長と共にトロールを討伐する。分かったなとにかく走れ‼」
そう言ってシルファはゴミ捨て場の方へと走り去ってゆく。
逃げる? 逆方向に逃げたとしてもそこは行き止まり。地上までどれだけあるか分からない絶壁があるのみ。
治安部隊を信じるしかないのか、だがもし彼らが全滅すればこの街は崩壊。作り上げてきた家も今を生きている人もシルファも全部壊されてしまう。
そんなこと駄目だ。この目で見るんだ。空を、二人で。
ハノは指示通りに逃げるのではなく家の中に戻り、試作で作っていたパトロールロボットを抱えゴミ捨て場の方へ走り始めた。
しばらく走りゴミ捨て場の方へ近寄ると辺りが光に包まれる。それをゴミにランプの火が引火し爆風を起こしたのだと察すると飛び散る破片から目を守るため腕で守り。その腕の隙間から状況を確認するため視線を前に戻す。
「……あっ」
その光景は非現実的であり、思考を止める。オレンジ色に輝く炎と共に見える、約七メートルほどの武装したトロールが二体、そしてそいつの目の前には地面に倒れる人間だった物の上半身だった。
両手で口を強く押え、泣きたい叫びたい気持ちを抑え込みながらゴミの陰に隠れしゃがみ込む。
駄目だ冷静になれ、ビビるために来たわけじゃないだろ。
焦りと恐怖を腕に込めてゴミに強く叩きつけ、痛みに変える。両手から流れでる真っ赤な血液を見てシルファの安否を思い出し冷静さを少し取り戻すと。
「ウオオオオオオオオオオオォ‼」
大きなおたけびと共にゴミの陰から相手を再び目視する。
トロールは甲冑と大型の曲刀を装備、その周りに約二十人武装し交戦する人間、十六人の死体、原形のない物もあるがシルファはまだ死んでいない。交戦しているしている人間の中に彼の姿があった。
まだ生きていることに安どはしたのだが状況は目に見えて劣勢だということが分かる。
二体というトロール相手に攻撃をする隙が無く、かわすことに全ての神経を使っている様子だ。それもそのはず、かわし続け一瞬隙をつき斬撃を放つ者もいるのだが、斬撃を行った剣はトロールの装甲にいともたやすく弾き返されトロールのカウンター攻撃一振りで人間の原型を崩される。
このまま戦い続けてもゴミで作られた武装では時間は稼げても倒すことはできない。分かっていても逃げることはできない。たとえ逃げたとしても死ぬことの先延ばしにしかならないのだから。
トロール二体、状況は絶望的、だが勝つ可能性があるからこの場にやってきた。
空に届く最後の希望ジャンクマン。元戦闘兵器であるジャンクマンさえ起動できれば可能性はある。
だがしかし起動させるまでには障害がいくつかある。
まず一つ目、ジャンクマンを埋めた場所はトロールの後ろ。そこまで無事にたどり着けなければいけない。
二つ目、動力源の確保の時間。最後の希望であるジャンクマンの電源パーツを家から持ってきた試作パトロールロボットの電源と入れ替える。地下世界の動力源は全て試したがジャンクマンは起動しなかった。なら最後は電源本体をつけ変えるしかない。
最後は動くかどうか。こればかりは運。だがこの運にすべてがかかっている。
ここで迷えば勝てる可能性さえもつぶれる。
動くしかないんだ。
深呼吸をゆっくりと、何回も、何回も、呼吸の乱れが整うまで続け。
「シルファ‼」
ハノは大きな声で叫ぶと同時に走り出していた。
シルファは驚いた表情を見せたがハノに言葉を返さない。彼もこのままだと全滅すると察していたからだ。そして昨日の出来事がフラッシュバックのように頭の中を駆け巡り。ハノがジャンクマンを起動させるワンちゃんにかけていることを瞬時に察し、がむしゃらに言葉を出していた。
「隊長‼ 全トロールをこちらの部隊に集中させ北東ゴミ捨て場から移動させてください‼」
一見ただの一般兵の言葉だが隊長もシルファと子供のころからの付き合い互いで信頼している。長年の感からかシルファが言葉にした数秒後には生きている兵士全員に北東ゴミすて場に向かわせぬようにこちらに注目を集めろと指示を伝える。
トロールは治安部隊の通りジャンクマンが隠されている北東から徐々に離れていく。
届く、これならトロールに見つからずにジャンクマンまで。
走る。息が切れても。ただ真っすぐに。そしてハノの目に映る。最初の爆発で上のゴミが飛び散りはゴミの中から出ていたジャンクマンの姿を。
ジャンクマンに向かって飛びつき、手を思いっきり伸ばす。そしてジャンクマンの体に触れたと同時に、『ズドン』と重い音と同時にゴミ捨て場に衝撃が走った。
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