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 僕たちの住む街から4キロ歩いた先にある世界の端っこ、絶壁が目の前にある。見上げても変わらない暗黒の景色。


 ズルズルと大きな袋を持ってきたハノは袋を広げ、他人から見たらガラクタの山を目の前にしゃがみ込むともう片方の手に持っていた道具を使い加工し始めた。


「本当に集中してるときは周りが見えてなくて危ないなハノ。その大きな袋を見て金目のものになると思った馬鹿がお前に喧嘩吹っ掛けてきそうになってたんだぞ。それもここまで来るまでに五人、話し合いで落ち着かせるのに苦労したんだぞ全く」


「ありがとうシルファ」


「……素直に感謝されてもなんかムカつく」


 ハノはガラクタをまじまじと眺めながら手を動かしてU字の道具に変えてゆき、その道具が出来るたびにシルファに渡した。


 シルファは小さなため息をつくものの表情は笑っており、U字の道具を受け取ると絶壁に近づき半年前から取り付け始めた足場を探し上り始めた。


 今二人がやっている作業はハノが足場を作り、シルファが絶壁に足場を取り付け地上まで通じる階段を作っていた。


 階段と言っても簡素なもので不安定、高く登るほど信用が無ければ誰がこの足場に足を掛けるのかと思う。


 だがシルファはハノの作った足場を信用して登り、地上につながる道をつける。


 ハノもシルファの信用に応えるために足場を作るのだが、絶対に壁から外れず壊れない物を作るため大量のゴミの山から素材を選び抜き、作られる足場の数は両手で数えるほどしかできない。


 今日の足場の数は四つ、地上に少しずつ近づいているのは確かだがいったい何日、何か月、何年かかるのかハノもシルファも分からない。


「ねえシルファ、僕らは地上に行けるかな」


 苔で作られた団子を頬張りながら休憩するシルファにハノは静かに問いかける。


「このペースじゃ無理だろうな。この地下街に生まれたら最後、この場所から上がることはできない。最もお前の拾った書物に書かれていた本物の羽があれば地上なんて楽勝なんだが」


 羽、ゴミ捨て場に落ちてきた書物に描かれていた鳥という生き物が持っている空を自由に飛べる。自分達にとって幻想。


 シルファが言う通りこの階段は僕たちが生きているうちには絶対に完成しない。地上に出るための物ではなく未来の希望につながる物。


 だから僕が、僕たちが地上に行くには羽をもち空を飛ぶしかない、飛べればこの地下世界から出て自由になれる。


 苔団子を食べ終え、立ち上がり帰る気満々のシルファの腕を強くつかみ。


「シルファ。今日はもう一つ付き合ってくれないかな」


 シルファが今日付けてくれた足場を最終的にハノが補強し、階段づくりの一日を終えた。

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