第六章 夢
夢を見ていた。
男が少女に覆いかぶさっている。その手が少女の身体を服の下からいやらしく触る。
気持ち悪い。
逃げたくても、逃げられない。
男は笑いながら少女にカメラを向けて動画を撮っている。
誰か助けて。
少女は声にならない悲鳴をあげた。
わたしが助けてあげるよ。
そのとき、耳元で誰かがいた。艶やかな栗色の長髪と、クリクリとした大きな目をした少女だった。
彼女は、自分を麗香だと名乗った。
その日から、麗香は少女の心の支えとなった。
場面が切り替わる。
男と少女の関係を、少女の母親らしき人が知ってしまったらしい。男は、母親の再婚予定の相手だった。
怒った母親は、男を家から追い出し、少女に暴行を加えた。
ごめんなさい。
少女が謝る。
あなたのせいで、こんなことになったのよ。
母親が殴る。
ごめんなさい。
少女が謝る。
あなたさえいなければ...。
母親が蹴る。
怒り狂う母親。止まらない暴力。終わらない、地獄。
誰か、助けて。
そう叫ぼうとしたとき、誰かが母親の首を絞めた。母親は必死に抵抗するが、やがて泡を吹いて死んだ。
母親を殺したのは、アミという少女だった。
「ありがとう…アミ…」
少女は笑った。
アミは後に死体を床下に埋めた。
場面が切り替わる。
少女は横断歩道を渡っていた。右から、信号無視をして進んでくる一台の自動車がいた。
運転手が少女に気づき、ブレーキを踏んだときにはもう遅かった。
幸い、少女は頭を打っただけで済んだ。一週間の検査入院が終わり、何も問題が無かったので退院した。
しかし少女は、事故のショックで麗香とアミの存在を忘れてしまった。
その後、少女は高校に入学する。
場面が切り替わる。
歩道橋を渡る女子高生の姿がある。アミは女子高生のあとをつけていた。
少女にとって、この女子高生の存在は邪魔だった。
女子高生が階段を降りるとき、アミは彼女の背中を押し、階段から突き落とした。
場面が切り替わる。
少女はだんだん麗香を鬱陶しいと思い始めていた。時々別人のようになる麗香のせいで精神的に追い詰められていた。
消してしまいたかった。
だから少女は麗香を突き落とした。
そのとき、誰かが自分の名を叫ぶのが聞こえた。
陽菜!
そのとき陽菜は思い出した。
そうか。これは全てわたしの過去の記憶だ。
麗香もアミも、わたしが作り出した幻想だ。
母親を殺したのも、来留海を怪我させたのも、麗香とアミを突き落としたのも、わたしが全てやったことだ。
嶋崎麗香なんて最初からいない。もちろんアミという少女も。
だからわたしは一人で落ちた。
あの事故のせいで忘れていた。
そういうことか。
目の前で一緒に落ちていく麗香。わたしは麗香。麗香はわたし。
そのときだった。
麗香の目から一粒の涙がこぼれ落ちた。
見間違いなんかじゃない。麗香が、泣いていた。
「陽菜…ありがとう」
はっきりと聞こえた。麗香の声ではっきりと。
その瞬間、嶋崎麗香という少女はそこに存在していた。幻想なんかではない。確かに、存在していたのだ。
忘れててごめんね、麗香。わたしのせいで苦しませて。
「…今までごめんね」
なんで麗香が謝るの。麗香が謝ることじゃないのに。
次の瞬間、身体に衝撃が伝わる。
「大好きだよ、麗香」
それだけ言うと、陽菜は目を閉じた。
意識が、だんだん遠のいていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます