11話 朝靄の見送り

居からの脱走は、諒俊からの説教だけで独房送りには、成らなかった。

香陽姫・その後の容態は、気になるが

食事配達は、口を閉ざし情報は、聞けなかった。


2日後の夕方に香陽姫が、亡くなったと触れ込みが届いた。


翌日の早朝・香陽姫の母親が、遺体を引き取る為に外界へ繋がる大門へ迎えに来る。娘の救出に活躍した。わらわ達に礼を申したいと愚清経由で、呼び出しが来た。


早朝薄靄の中・輿の代わりに荷車が、迎えに来て乗せられた。門戸までは、遠く歩き慣れていない。ふたりを乗せて荷車は進む。畑仕事で足腰は、鍛えているが、早く行かないと都合が、悪いらしい。


不祥事で亡くなった貴姫の遺体の受け渡しだ。公にする訳には、いかないのだろう。わらわは、賢いからその辺は口を挟まず黙って荷車に乗っているが、揺れる度々にお尻が、床板に当たり痛い。帰りは、遠くても絶対に歩いて帰る。などと思っていたら靄の向こうに大門が、見えて来た。


宮中生活に必要な品々の引き渡しに使われる朱塗りの大門。上の方が、靄で霞んでいる。門の外には、遺体を乗せる質素で大きな馬車などが、数台止まっており付近に喪服を着た屋敷の者達が、控えていた。


中に入れない香陽姫の母親が、門戸の前で待っていた。案内された。わらわ達に礼を述べ丁寧に頭を下げる。どことなく香陽姫に似た美人さんだ。


間もなく4人の宦官達が、遺体を担架に乗せやって来る。

ふと香陽姫の寝せ方に違和感を感じ担架に近付けば、遺体は何故か?うつ伏せに乗せられ白い大布が、掛けられていた。はらりと香陽姫の左手が、滑り落ち布から見える。


「貴姫さま…香陽姫さまのお手を元に…布の中へ入れて頂けますか」

付き添っていた後宮医が、わらわに声を掛ける。あの日・香陽姫の手当てをした医者だ。


何故わらわなのかと思いながらお手を布下へと戻そうと触れれば、ありがとうと囁く声とそっと手を握られ思わず声を上げそうに成るのをぐっと堪えた。


思わず医者を振り返り睨んだが、素知らぬ顔で、視線を外された。


この場を取り仕切る愚清が、はっきりと回りに聞こえるように声を張り上げ告げる。「お亡くなりになった。香陽姫のご遺体をお見送りいたします」


母親の側に控えた男が、前に進み形ばかりの向上を述べる。

「斉家より香陽さまのご遺体をお迎えに参りました」それを合図に門戸付近に居る者達は、泣き声を上げて香陽姫の死を悼み送り出す。


遺体は、宦官達の手から屋敷の者に渡され黒色馬車に乗せられる。

門外にいた母親も深々と礼をして娘が、乗った馬車に一緒に乗って行った。


既に香陽姫の私物を乗せた荷馬車が、後に続き、先ほど向上を述べた男が、愚清に声を掛け小さな袋を手渡す。


賄賂か?口止め料か? その後ろから医者が、奥様にと大きな包みと文らしきものを手渡す。あれは薬と治療方法の文かと…推測していると愚清に呼び掛けられた。


「この荷は、香陽姫の母上様からの心付けです。お受け取り下さい」と乗って来た荷車に乗せられた物を示された。香陽姫の傷の手当てに大量に使った綿布の代わりにと沢山の白い綿布と下には、色布やなどが、積み込んであった。


結局帰りも荷車に乗り居に戻る。

荷物を寝床に並べてみた。礼にと貰った布は、手当てに使った綿布の10倍・様々な布に刺繍糸などの下には、壺に入った塩と砂糖に茶葉・焼き菓子も入っていた。香陽姫のかあちゃん太っ腹〜と呟くと何故か着いて来ていた。愚清に声を掛けられる。


「何故おるのじゃ?呼んでは、おらんがのぅ」ジト目で睨んで見たが、下から見上げては、威厳が無い。


悔しいので寝床に立ち上がり。腰に手を置き少し寂しい胸を張上げ愚清を見下ろす。「何の用じゃ。両替は、間に合っておるぞ。」

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