第12話 願う者

 どうして王女がトレアルに居る?

 翡翠の瞳は、心の内側を見通すと言われて居る。

 王族の前では嘘偽りの言葉は意味を成さない。

 ヴェストリア国が大陸一の強国になった一つの要因とまで言われる程有名な話しだ、そんな王族がこんな街中に居たら騒ぎになってもおかしくないだろ。


「あっ!」


 王女が慌てて自分の目を隠す、そして魔法を使ったのか次の瞬間瞳の色が茶色になった。


「あの、この事は内緒にしてもらえますか?」


 上目遣いで頼んでくる。

 秘密にするのは良いんだが、もし俺じゃなくて悪巧みする様な奴にバレたら一大事だぞ、危機感が足りな過ぎる。


「分かりましたけど、護衛とか居ないんですか?」

「その……逸れちゃって」


 護衛と逸れたって。

 もし王女に何かあればヴェストリアは黙って無いだろ、接触した奴ら全員調べる位のことはしそうだな。

 まぁまだ日も落ちてないから探すの手伝うか聞いて見るか。


「探しましょうか? 護衛の人」

「いいんですか!?」

「え、えぇ」


 本当に困ってたんだな、何か嬉しそう。

 王女ミレイアと一緒に護衛の人を探す、そう言えば特徴を聞いてなかった。


「護衛の人の特徴ってありますか?」

「えーと、青くて長い髪に灰色のローブを着てます」


 青い髪か、あまり見ない色だな。探せばすぐ見つかりそうだけど……

 俺と王女は探し回ったが中々見つけられなかった。

 結構歩いたし、休憩も兼ねて座れる所を探し、今は休んでる。

「何処に居るのかしら、クレア……」


 どうして此処に居るのか、聞いて良いのか分からなかったが、特に会話も無くちょっと気まずかったので聞くだけ聞いてみる。


「どうしてトレアル国に居るんですか?」


 一度、俺の方を見てから俯き、そして顔を上げ、辺りを見渡しながら。


「私は、この世界に住む皆んなが幸せになれる世界にしたいの。――――この国は貧困の差があまりに大き過ぎる、王侯貴族は裕福な暮らしをして湯水の様にお金を使い、民はその暮らしを支える為に長い時間を費やし働き、働けない者には家も何も与えられず、位の高い者には、絶対服従。そんな国あってはならないと思うんです」


 ……綺麗事だな、全員が幸せになれる世界なんて何処にもない。

 自分達の幸せは、誰かの不幸になり得るんだから。

 

 いくら王女が変えようと努力した所でトレアルの権力者達はそれを許さない、今まで金を使い、人を使い、自分達だけに利益を回す、その仕組みが当たり前だと思ってる奴らが今まで見下して来た人間に何かする筈がない。


「だから私は、この国を見て感じた事を忘れない為に、いずれ国を導く者として心に刻む為に来ました――――今の私にはこれしか出来ませんから」


 最後の言葉は、何処か儚げだった。

 今、自分のやれる事を考え行動する、この人はこの人成り

 に将来を見据えて行動してるのか。


「そう言えば、あなたの名前を聞いて無かったですね!お名前は何と言うのですか?」

「シュウとい、います」


 王族相手に名乗るなんてした事なかったし、なんて言えば良いのか分からず変に突っかかってしまった。


「ふふっ、良いですよ畏まらなくても、誰も見てませんし、誰も私の事分からないですから」


 そお笑いながら言ってくれる。

 王女が気の優しい人で良かった。


「あ!居た!」


 王女がいきなり立ち上がりちょっとびっくりした。

 どうやら見つけたらしい、俺も王の視線の先を見て見ると青い長髪の女性が必死に此方に向かって来る。


「ちょっ、何処にいらしてたんですか……」

「ごめんないクレア、ちょっと気になった事があって」

「そお言う時は、私にも一声掛けて下さい」


 物凄い疲れた様子でいる、確かに一国の王女が行方不明に、しかも自国の領土とはいえ他国、何があるか分からない状況なら焦りもするだろう。


「それで、そこの男はだれですか?」


 いきなり腰にある剣の柄を持ち身構える、まあ警戒するだろうな、俺から何言ってもダメだろうし王女に弁明してもらおう。


「クレア待って、この人は一緒にクレアを探してくれたんです! 悪い人じゃ無いですよ!」

「…………そおですか――この事は他言無用、ではこれで、行きますよ」


 そお言うとクレアと言う護衛が王女を連れて歩いて行く。


「シュウさん、ありがとうございました! またお会いしましょう!」


 手を振りながらお礼を言われ(また会いましょう)か、ヴェストリアの王族は心を見通す、俺の何を見てそお言ったのだろうか、王女の考えが分からない。



 そんな感じで、迷子の王女も返せたし日も落ちて来たから、マヤ達の居る所に向かった。

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