第9話 追っかけ

 本音を言い合って、前までは成り行きで一緒に行動して来ただけの関係だったけど、今は一緒に旅をする仲間という感じで悪くない気がする。


 けど昨日本音で、しかも感情を思いっきり出して言ったせいでなんか凄い恥ずかしい。

 マヤは昨日の夜あのまますぐに寝てそれまでは良かったんだが、朝起きてからなんか口数が少ない、目も合わせ様としない、沈黙が嫌なのか急に喋り出したかと思うと。


「あ! あぁ〜なんかお腹空いてきたね!」

「…………さっき食べたばっかだろ」

「そ、そういえばそうだったね〜、成長期かな?」


 と、こんな感じで変な事を言い出す、21にもなって成長期は無いだろ。

 マヤがこんな調子だとこっちまで変に意識してしまう。


 そんな感じで、ある程度歩いていると。


「あそこ! 人倒れてる!!」

「あ、おい!!」


 マヤが急に走り出して追ってみるとボロボロになった金髪の女冒険者が倒れていた。


「クリス!?」

「知ってるのか?」

「し、知ってるけど……」


 ん?なんか歯切れが悪いな、訳ありなのか?

 取り敢えずこのまま放置する訳にも行かないので様子を見る。

 服はボロボロだけど外傷は見当たらないし息もしてる、疲れて眠っているだけに見えたので特に何もせず起きるまで待つ。


 30分位だろうか、ようやく目が覚めた。


「あれぇ、ここって……」

「目が覚めた?」

「…………」


 金色の髪に青い瞳の、マヤより少し背の高い女の子。

 見た感じ魔族では無さそうだけど、どんな関係なんだろうか。


「やっと見つけた!!」

「ちょっ!!」


 クリスと言う女の子がマヤを数秒見つめたと思っていたら急に抱きついて行った。


「放しなさい!!と言うかなんでクリスが此処にいるのよ!?」

「痛っ!!」


 鬱陶しいと思ったのか思いっきり押し退けた。


「いやーそれが、マヤさんをずっと追いかけて来たんですけど全然見つからなくて、この森で行き倒れてたらこうなりました……えへへ」

「あんたノガラから追ってきたの!?」

「来ちゃったっ!」


 片手でピースサインを作りながらウインクして言ってる……。


 ノガラとは此処から北の方にある街でメラニア程大きくは無いがそれなりに発展してる国、そこからマヤを追って来たとか言ってたけど……ストーカーか?まぁ好きな女を追って旅してる冒険者もいるみたいだし珍しくは無いけど。

 

 クリスが言うにはメラニア付近にマヤが居ると目星を付けていた所マヤの魔力を見てメラニアに寄ったが居なくて人伝いに情報を聞いてこの森まで来ていた。

 そして昨日の夜、連日の移動とあまりまともな食事をして来なかったつけが回ってきて森の中で倒れてしまったらしい。


 マヤの知り合いらしいし、丁度昼時だったので一緒に食事をした。


「いや〜助かりました!危うく死ぬ所でしたので」

「で、何で私を追ってきたの?」

「それはもちろん、マヤさんに恩返しをしたいからです!!」

「恩返し?」


 昨日マヤが人と関わってきた事は知ってる、恩返しされる様な事をして来たのか……マヤらしいな。


「そおなんです!!私が龍種に襲われて居た所を、危機一髪のタイミングで颯爽と現れ、「大丈夫?もう安心していいよ」と言って頂き、一瞬で倒してしまいました。……私はもう、惚れちゃいました……なので!恩返しと私の人生を捧げにやって来ました!!」

「………………重い」


 身振り手振りを加え、まるで演劇をやって居るかの様な感じて追って来た理由を説明してる。

 ……確かに重い、人生捧げるとか言ってるし。


「ですが!!誰ですかこの男!!マヤさんと2人っきりで旅なんて羨まけしからんです!前は1人で旅してるって言ってたじゃないですか!!?」


 矛先が俺に向いて来た。面倒くさくなりそうなのであまり口答えしない方がいいだろ。


「いや、ちょっとね……」


 マヤが俯きながら意味深な言い方をする。

 

「なっ!まさか、騙されたんですか?それとも何か弱みを握られてるとかですか!なんてひどい、私が倒します!!」

「ち、違うよ!!」


 腰にある剣に手を掛けて殺意剥き出しでおれを見ながら言ってくる。

 食事の時は黙って食って居たのに、腹が膨れたら急に騒ぎ始めた。

 一つの事しか出来ない単細胞なのかこいつは。


「シュウとは、その……成り行きでと言うか、私が誘ったと言うか……」

「そんな……」


 マヤが顔を赤らめて言う。まるで世界が終わったかの様な絶望的な顔でクリスが膝から崩れ落ちた、……忙しい奴だな。


「決めました」

「え?」

「私、マヤさんの目を覚します!絶対この男が何かしてます!悪意に晒されない為に付いて行きます!!」


 やっぱり付いてくるのか。


「もお一生離れません!そのお美しい御心を守るために!」

「えぇと…………良いかな?」


 まぁ別に、下心はありそうだけど悪意があって近づいて来た訳では無さそうだし、1人で旅が出来る程の実力が有れば変に心配事も増え無さそうだからいいか。


「まぁ、良いんじゃないか」

「ふん!これからはマヤさんを好きに出来ると思わないことね!」


 こうして三人目の旅仲間が増えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る