第8話 心の内
街から少し離れた所まで進み辺りはもう暗い、先程の戦闘の疲れもあるので、手頃な場所を見つけて野営する事にした。
「……」
特に会話もする事なく食事を済ませ魔獣対策の結界も張り、後は眠るだけ。
「……何かあったの?」
マヤが俺に聞いて来る。
アルガンタとの戦いで疲れたのもあるがそれ以上に自分の無力さに落ち込んでいた。俺は今まで目的を果たすため努力して来たし、それに見合うだけの自信も持っていた、もう普通の冒険者では相手にならない程の実力も付けた。
けど足りなかった、メフィストの赤墨は予想よりも強かった、今まであった自信がこれが現実何だと分からされた事に、今ならやり合える力を持っていると思っていた街に居た時の自分に腹が立つ。
汗一つ流さず無傷で水龍を撃退出来る程の力に嫉妬する。嫉妬は余計に自分の無力さを引き立たせ怒りに変わる、その行き場のない怒りは、せっかく手に入れられるかもしれなかった、赤髪の男の情報も得られなかった焦りも相まって、隠れていた感情が表に出て来る。
「……どうしてお前は、俺と一緒に旅をしたがる。今まで成り行きで一緒に居たが意味なんて無いだろ、……お前は強い、あの水龍だって1人で撃退できる、あのメフィストだって倒せたはずだ、それだけの力があれば何だって出来るだろ……力の釣り合わない俺と居て何の得がある?目的は何だ!?」
自分の口から出る言葉に嫌になる、マヤに当たっても意味が無いのは分かってるけど、込み上げて来る感情と焦りが口を動かす。
「俺は1人でメフィストを追ったけど全然歯が立たなかった、でもお前が行けば止められた!……俺は、必要無かった……もお、どっか行ってくれ!!」
どんどん自分が嫌になっていく、どうしてこんな事になって居るのだろうか。
「…………シュウ」
俯きながら、か弱い声で。
「私はね、強くなんかないよ……どんなに大きい魔力を持っていても、どんなに強い体を持って居ても私は、1人じゃ生きていけない。もお旅をして5年位経つの、今まで凄く辛らかった」
顔の魔印がある所に手で触れながら。
「最初の頃私は魔印を隠す事が出来なかった、街や国に行ったらみんな私を遠ざける、まともに会話もしてくれなかった、でもたまに私が魔族だと分かっていても優しくしてくれる人は居た、だから私は旅を続けられた楽しみがあった。魔印を隠す事が出来るようになってからは普通に会話してもらえる様になったの」
マヤが自分の過去を話すのはこれが初めてだ、いつも元気で笑っていて明るい姿は無い。
初めて見るマヤだった。
「でもね、もし私が魔族だと分かったら態度が変わるのかな、なんて思ったら嫌になった。今更あの村に帰るにも道は分からないから帰れない……1人でいる時が嫌だった、私が魔族だと分かっても一緒に居てくれる誰かが欲しかった……」
途中から涙声になり、目線を向けると泣いていた。
「そんな時出会えたのが君だったんだよ? シュウ」
俺を見つめて来る、さっきまで口に出していた言葉が心を抉って行く。
「シュウに会えてそんなに日は経って無いけど、でも楽しいの!2人で食べる食事も、買い物も、他愛の無い話しも、ただ一緒に歩いて居るだけでも!」
必死に、縋り付く様に。
「だからこの先ももっと色んな所に行きたい、もっと色んな所を見てみたいの、一緒に!」
「マヤ」
苦しい、息がつまる。
「だからお願い…………隣に居させて」
マヤは今にも壊れそうな勢いで地面に座り込む。
今の世の中、魔族と言うだけで嫌厭される。魔人戦争で魔族はその元々持っていた強い力で、多種族を多く殺し略奪して来た、だが人間族に勇者が現れ一気に戦況が変わっていき魔族は破れ敗戦した。
魔人戦争が終結したのは、20年程前であり多くの者が覚えている、そんな中で魔族が1人で旅をしていて何も起こらない訳が無い。魔族と言っても感情はある、分かっていた事なのにマヤがいつも明るく振る舞う物だから忘れていた。
「…………ごめん、感情的に言い過ぎた」
マヤは強い、強すぎるせいでこんな世界で1人で居ても死なない、けど死なないだけで1人では生きていけない。
「俺もマヤと一緒に居た時間が楽しかった、マヤがいつも楽しく過ごして居る姿を見ると俺も、何と言うか、楽しかった」
特に考えもせず出た言葉だった。
そうだよ楽しかったんだよ、他愛無い話しでも、こうして誰かと一緒に居られる事も。いつも変わらない日々が、マヤと会ってからは、毎日が違う。
そんな日々がこれからも続けば良いと今は、思う。
込み上げてくる、吐き気とも違うこの感覚を認めるかの様に。
自分を安心させる様に。
「だから、これからも一緒に旅を続けてほしい」
今の気持ちを、嘘偽りの無い気持ちを伝える。
プライドや意地だけ通して、後悔はしたく無いから。
「うん!!」
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