第6話 力の差

キン――――キン――ドカッ――

 人の居なくなった街中で金属がぶつかり合う音と爆発音だけが響く。


「ウインドカッター!」


 風の刃がアルガンタめがけて放たれる。


「ほいっと」


 (クソッ、全部受け流される!)


 緊張と焦りが気持ちを逸らせる。


「どうした、こんなものか?」


 絶対あの余裕顔を壊してやる。

 正面から行ってもダメ、魔法で気を逸らしても隙が生まれない。


 このままだと負ける。

 長期戦は無理だと判断して、すぐに決着をつける為、余っている魔力を身体強化に使い、限界に近い速さで油断している相手の隙を狙う。


 悟られてはダメだ、一気に魔力を放出する。

 身体中の筋肉が悲鳴をあげ、力む力の限界が超えた刹那に足を動かし、相手の後ろに回る。

 自分の動きに脳が追いつけない、けど距離感と今までの戦闘経験から成せる身体の使い方で、ほぼ感覚だけで剣を振るう。


「うっ!」


 ダメージは与えられた、けど浅い。


「急に早くなりやがって…………なんだこれ!!?」

「!?」


 空が暗く日の光さえ遮る程の魔力が辺り一面に広がる。

 この馬鹿でかい魔力はマヤのものだろ、あの夜感じたものと同じだ。


「おいおい、こんな化け物がこの街に居たのかよ……こりゃダメだな」

 「何のことだ?」


 やはり、此奴には何か目的がある、水龍を利用してなにをするつもりなんだ?


「言う訳ねぇだろ、お遊びは此処までだいつかまた会おうぜ」

「おい!待て!」

 

 男が魔法で姿を消そうとする。


「俺はアルガンタ、お前は?」

「……シュウ」

「覚えたぜお前の名前、次会う時はもっと強くなってろよ」


 そう言うとアルガンタと言う男は、姿を消した。


「…………クソッ!!」


 軽くあしらわれ、手を抜いて戦われていた事に、自分の実力不足に、怒りが込み上げる。



 



 

 水龍、それは海の王、海洋生物の頂点に座する者であり牙を向けてくる者など居なかった。

 それは地上でも同じ、自分の姿を見た者達はみんな逃げて行く、たまに立ち向かって来る者もいたが簡単に殺せる。

 世の中には同じ龍種がいることは知っている、恐らく自分とやり合えるのは同じ種族だけだろうと思っていた。


 それは間違いだった。

 

 海底で眠りに着いていた俺は起こされた、それも何らかの魔法で、眠りを妨げられた事と攻撃魔法による痛みから怒りが込み上げ、その犯人を殺すべく水上に上がる、そして1人の人間がこちらに手を向けて居るのが見えた、犯人はあの人間。

 思いっきり威嚇する様に叫ぶ。

 逃げても無駄だ、もう既にあいつの魔力は覚えた、いつでもやれる、そう思っていたら小さい人間がこちらに向かって来る。

 鬱陶しいから逃げさせようと軽く威嚇した、だが逃げなかった。

 

 そして小さい人間が何か小さい声で喋ってると思ってたら、その人間から今まで感じたことの無い程の莫大な魔力が発せられ世界が変化して行く。

 身体が怯えている、さっきまであった怒りの感情など消し去り、ただただ自分に向けられている魔力に恐怖するしか無かった。

 

 ほんの数分、沈黙が流れる時間が永遠とも感じる、何も出来ない、声も発せられないでいると。


「…………許してくれないかな、君を怒らせた奴はもお近くに居ない」


 そお言うと魔力が小さくなっていく、向けられた恐怖から解放され身体の力が抜けて、先程迄の怒りも無くなった。

 よく見ると頬から首にかけて痣の様な物がある、人間では無く魔族だったのだど今初めて知った。


「「分かった…………お前はただの魔族では無いな、魔族とは言えさっきの魔力は、あまりにも大きすぎる……何者だ」」

「ただの魔族だよ、ちょっと魔法が得意なだけのねっ!」


 片目をつぶりながら言ってくる。

 ついさっきまで怯えて居た事を気取らせない様に気丈に振る舞う。

 

「「…………そう言う事にしておいてやる、名は何と言う」」

「マヤ」

「「そうか」」


 今から自分を起こした犯人を追うにも既に遠く内陸の方に行ってしまったので、追うのも面倒に思ってしまったのと、マヤと言う魔族に逆らう気も起きないので、海底に帰る事にした。


 あの魔族の少女は明らかにおかしい、魔族はもともと魔に長けているとはいえそれでも常軌を逸している。

 恐らくあの少女、マヤは理を逸する存在。

 大き過ぎる力は、否応なく世界を動かす。


 (…………よし、関わらないでいよう!)


 そう思いまた、海底で眠りにつく。

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