第5話 メフィスト

 嫌な夢を見た。

 身体を起こし自分が寝汗をかいている事に気が付き気持ち悪さと窓からさす朝日で一気に目が覚める。

 

「ん?」


 立ちあがろうとした時、何故かマヤが隣で寝て居て手を握っている。

 

 (……もしかしてマヤを運んだ時俺もそのまま寝たのか?)


 酔っていたせいかマヤをベットまで運んだ所までは覚えて居るがその先が全く分からない。

 まあいいか、と思い着替えるのと汗を流す為に浴室に向かう。シャワーを浴びながらさっきまで見ていた悪夢の元凶、メフィストがこの街に居る。友人を殺した赤い羽の入れ墨を顔にした赤髪の男かも知れない。あいつを殺す為に力をつけた、今度は逃げない。

 



 朝の支度も終え、昨日出来なかった買い出しに出掛ける。


「……なんか昨日より警備の人多いね」


 確かに今日は多い、それに気を張っている様に見える。近くに険しい顔で話してる冒険者風の男達が話してるので情報を得ようと盗み聞きしてみる。


「……あぁ、あの親のガキは可哀想だな」

「まぁあいつらを見たって奴が居たんだそれなのに夜に外出るのも悪いがな、……メフィストは何が目的だと思う?」

「う〜ん、この街にそんな大層なもん無いけどな」


 会話から察するに昨日の夜メフィストに殺された親が居たのか。

 この街は城壁はあるがそこまで高い訳でも無く結界で覆われている訳でも無い、城壁の上に警備隊は居るが、腕の立つ者なら侵入出来なくもない。

 おそらくそれなりに力を持つ者がこの街に来ているんだろ。


 買い出しを済ませ、これから街を出るのも少し時間が経っているのでそこまで進めないと思うし、それにメフィストの動向も気になる、今日の夜調べて見ようと思いもう一泊する事にした。

 今から宿に行っても時間が余るしマヤが海辺に行きたいと言うので今、一緒に歩いている。


「……海綺麗だね」

「あぁ」

「皆んな楽しそう」

 

 漁師達が仕事が終わったのか浜辺でシーツを敷き大勢で酒を飲んでいて賑やかだ、そんな姿をマヤが楽しそうに横目で見て歩いている。


「マヤはいつも楽しそうだな」

「楽しまなきゃ損だよ! シュウも笑って楽しもう!」

「そんな楽しい事でも無いだろ」

「じゃあ笑おう!笑ってたら楽しくなるから!」


 そお言うと正面に立ち止まり、口を大きく横に開き目を三日月の様に細め大袈裟な笑顔を俺に見せてくる。


「フッ……何だよそれ」

「やっと笑った」


 そういうといつもの優しい笑顔に戻った。


「……笑ってたほうがいいよ、前を向いて、胸を張って、そしたら見えなかった事が見えてくるよ、きっと」


 そう言うとまた歩き出す、前を向いて。

 見透かされてる感じがした。

 夢に見た過去の後悔、今居る街にその後悔の一部があるかも知れない。

 焦っているのか朝からずっと、この街にいるメフィストはあの男なのか、でもあいつは王都に居たから此処にいる可能性は低い、情報は掴める可能性はある、などと考え事をしていた。

 確かに視野が狭かったかもしれない。

 マヤにもっと周りを見ろと言われてる様な気がした。


「マヤ…………?」

「シュウ?」


 少し離れた、人の居ない海辺に深くフードを被っている男が手を海に伸ばしている。

 そして海風に当てられたフードが波打ち、入れ墨がある様に見えた。


「!?」

「ゴオオオオオォォォーー!!!」


 それとほぼ同時にもの凄い地響きと鳴き声がする。そして海の沖から水飛沫と共に水龍が現れてまた叫ぶ。


「ガアアアァァァーーー!!!!」


 水龍は大海に住む魔獣の中でもっとも強い。ただの冒険者に倒せる相手では無い。

 そんな水龍が突然現れ街に向かって叫けば敵意がこちらにあると言っている様なもの、当然、街中はパニック状態になる。

 


「マヤ、あの水龍頼めるか?」

「余裕!シュウはどうするの?」

「メフィストが居た、多分あいつが水龍を呼び寄せ怒らせたと思う、だから追う」

「分かった気をつけて!」

「マヤもな!」


 マヤなら食堂の一件で魔法に長けている事は知っている、それに馬鹿でかい魔力量もあるし、余裕ぶっこいてるからまかせても大丈夫だろ。

 それより街の方に走っていった怪しい人物を追いかける、

 俺は魔力を身体中に張り巡らせ身体能力を上げ常人の何倍もの速さで追っていく。

 

 そして怪しい者に追いつき足を止めようと魔法を使う。


「アースロック!」

「!?…………ほぉ、追いつけるのか」


 後ろからほとんど無音に近い状態で後ろから魔法を不意打ちしたのに避けられた。声からして男、それなりに腕の立つだと認識し、身構える。


「お前だろ、水龍を呼び寄せたの」

「見てたから分かるだろ、そんな事」


 男がフードをとり顔を出した、黒髪短髪の30前後の男、そして赤の羽の入れ墨。


「……メフィストか」

「さぁどうする、此処で殺しあうか?それともメフィストだと分かって通報するため逃げるか?」

「…………赤い入れ墨をした赤髪の男を知ってるか?」

「あぁ?言わねぇーよ、聞きたかったら力づくで吐かせてみろよ」


 まぁ言わないだろおとは思っていた。

 

「あっそ」


 男は腰に差しているロングソードを抜き構える、俺もそれに合わせる様に剣を抜く。

 やっとメフィストの構成員を見つけられたんだ、必ず此奴からあの赤髪の男の情報を得てやる。





 

「さて」

 

 浜辺に1人、シュウはメフィストらしき人物を追って走っていった、街の人達は我先にと走って海から離れる様に行った。

 多分もう少ししたら冒険者達が討伐は出来なくとも撃退させる為に集まってくるだろう。

 今もこちらに向かって来ている水龍。


「いっちょやったりますか!」


 あまり街に近い所でやり合うと被害が出るので飛行魔法で水龍に近づいて行く、水龍もこちらに気付いたのか威嚇する様にまた吠える。


「ガアアアァァァーー!!!」

「相手との力量差も分からないのか……仕方ない」


 今まで抑えていた魔力を解放し、辺り一面を自分の世界に変えてゆく。


「怖くなったらいつでも帰っていいぞ」


 瞳は紫色に発光し、隠していた魔印が現れる。


 


 


 

 


 

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