第4話  悪夢

 冒険者ギルドの騒ぎも受け付けの人が手慣れた感じで収めてくれて、落ち着いた所でマヤの冒険者登録をする事にした。

 冒険者になればギルド直轄のお店が使える様になる、そうすれば冒険や旅に出る時に必要な物が安く買えたり討伐した魔獣なども換金できる様になって色々便利だから登録しておく。


「冒険者登録ですね、こちらに名前と年齢と種族をお願いします!」


 そう言えばマヤは字が書けるのだろうか?

 

「…………書けた!」


 …………字が思いの外綺麗だった。

 

「……はい、では冒険者カードが出来上がるまで少々お待ち下さい」


 冒険者は様々な種族が登録されてる、それは魔族も同じで今でも冒険者として働いている魔族も少なく無いと言われている、だからマヤが魔族だからとあしらったり態度を変えたりする事も無い。

 今のこの大陸では魔族に冒険者以外の稼ぎ口は殆ど無い、小さい村で魔族同士が自給自足の生活をして居たり、魔族だと隠して他種族と暮らしたりしてる者も居る。


 魔族は寿命が長く人間の3倍ある、だから俺が寿命でマヤよりも先に死んでしまった場合稼ぎ口があった方が色々便利だと思って冒険者になる事を勧めた。

 まぁマヤは金が無くても生きていけそうだけど。


「お待たせしました。こちらがマヤさんの冒険者カードになります。冒険者カードは年に一度更新をお願いします」

「ありがとうございます」


 


 マヤの冒険者登録も終えたので、魔獣の換金にしてもらい、ちょうど日も落ちて来た頃合いなので宿に泊まる事にした。

 ギルドの裏手側にある冒険者専門宿に泊まる事にした、夕食付きで浴室まであるのに結構安いのでよく使っている。

 ただ冒険者専門なので何かとうるさい。


「これおいしー!」


 マヤが鳥を衣を付けて揚げた物を食べながらはしゃいでいる


「それは良かったな」


 俺はいつも食べているキノコや山菜が入っているパスタを食べる。前までは色々な物を食べていたけど結局このパスタしか食べなくなっていた。


 冒険者専門宿とだけあって周りは冒険者だらけ、皆んな酒を飲みながら騒いでいたりする、喧嘩をする者も居たり、床で酒瓶を抱えながら寝てる者も居たり、依頼で仲間を失ったのか泣きながら酒を飲んでる者が居たりと様々だ。


「よし!シュウ!」

「?」

「私達も酒を飲むぞ!」


 マヤと他愛もない話しをしていると急に立ち上がりそんな事を言い出した。


「……俺は要らない」

「何故だ!?酒場で酒を飲まないのはおかしいだろ!!」

「此処は食堂だ」


 驚愕に打ち震える様な顔で身を乗り出し言って来た。

 酒に付き合わないと言ったら急にテンションが下がり下を向きながら少しずつ料理を食べている。

 …………まぁ好き好んで飲もうと思わないが酒は飲めない訳では無い、それにこうして誰かと食事をする事なんて何年も無かったせいか今のこの食事は、妙に美味しく感じたし楽しかった。

 周りの空気感もあって少しだけ付き合うことにした。


「…………俺はそんなに飲まないからな」

「!!――すいませーんエール2つお願いしまーす!」


 感情の起伏が激しい、さっきまであんなに下を向いて居たのに今では笑顔で今か今かと酒を待っている。


「もぉ〜シュウも飲みたいんだったら最初からそう言えばいいのに〜」

「そうだな」


 こいつは本当に21歳なのだろうか、年下にしか見えない。

 マヤがルンルンで待って居るとエールが来た。

 

「じゃあかんぱーい!」


 ジョッキ同士を軽く当てて一気に飲み干していく。


「うんまぁ〜い」

 

 顔をだらしなく崩しながら言う。

 俺もエールを飲んで行く、久しぶりに飲んだせいか美味しく感じる、やっぱり他人が美味そうに飲んでいると自分も美味しく感じるんだろうか。

 

「あまり飲み過ぎるなよ」

「大丈夫よ!私お酒強いから!」



 こうして宿での食事を終えた。何となく分かっていたがマヤは潰れた、途中から飲み干したジョッキの数を数えるのも分からなくなる程飲んで「クッ!抗えぬか……」と言う訳の分からない捨て台詞を吐いて寝落ちした。

 食堂で会計を済ませ、マヤを寝室まで運んで俺も疲れと、お酒の心地よい酔いで眠くなったのですぐに眠りにつく。


 




「シュウ!走れ!」

 

 暗い街中、壊れた家の瓦礫を避けながら何者かから必死で逃げる

 

「もうすぐ人の多い大通りに出る!そこまで行けば大丈夫なはずだ!」

 

 昔、同じ孤児院だった友人が俺に言う。

 心臓がやたら早い、酸素が足りないのか頭が回らない、足場の悪い所を走っているせいかやたら足が重い。

 走り続けなければ殺される、恐怖と焦りだけが込み上げてくる。

明るい光と人の声が聞こえてくる。あと少し進めば安全だ、早くこの地獄みたいな今から逃げる様に、早く心の安心感を求めるかの様に、目の前の明るい人の声と自分が踏みつける足音しか耳に入ってこない。


「ハァハァ」


 助かった。

 これで死なずに済む。

 そう思い共に助かった事を確認するのと院長にさっきあった事を伝えようと言おうとした。


「これでひとまず安心だろ、院長になん……て……」


 周りに友人の姿は、無かった。

 少し後ろに離れた場所で、顔に赤い入れ墨をした赤髪の男が血の着いたな刃物と友人が付けていた手作りのネックレスを持っている。

 目の前が揺れる。

 喪失の絶望と後悔だけが残り、世界が暗転した。





「…………シュウ?」

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