第3話 冒険者

「見えてきたな」

「だねーそれに人もいっぱい」


 メラニアは中央大国ヴェストリアの領地でトリアと言う貴族が領主を勤める街。行商人や漁師、それに冒険者ギルドもあるので冒険者などが主にこの街に住んでいる。


「マヤ、お前魔印は何処にあるんだ?」

「首から右頬にかけてあるんだけど魔法で隠してるの。心配しなくても大丈夫よ、私の魔法を見破れる人間なんて居ないから!」


 一体何の自信があって言えるんだろうか。

 確かにあの夜、マヤから発していた馬鹿でかい魔力を考えるに結構魔法は得意なんだろ、今も全くと言って良いほど魔力を感じないし。


「今更だけど何であんな夜の森の中に1人で魔獣とやり合ってたんだ?」

「あの場所の近くに川があったでしょ?そこで寝ようと思ったんだけど、なんか魔獣のテリトリーだったみたいで襲ってきたから返り討ちにしたら血の匂いで他の魔獣も来ちゃったからね」


 なるほど、あの死体の山はそう言う事だったのか。

 魔獣は血の匂いに敏感だ、夜は特に反応する。

 討伐した後はなるべく早く血の匂いを抑える為に消臭効果のある魔法瓶を使わないと他の魔獣が死体を捕食しに寄ってくる。


 


「人並んでるね」

「前に来た時は、警備隊なんか居なかったはずだが」

 

 メラニアは魔獣の被害から防ぐ為街を覆う形で城壁が建てられていて、街を出入りするにはこの街道のある道の門からしか出来ない。

 普段は居てもあんまり意味のない様な門番が2人突っ立って居るだけだけど今は、門番と武装した警備隊が4人程見える。

 俺達も街に入る為に人の列に並ぶ。


「あら、可愛らしいお嬢さんだね」

 

 腰が曲がっていて白髪の、人の良い顔をしたお婆さんが話しかけてきた。


「おばあちゃん、私これでも21の立派なレディよ?」



 え?まじで?てっきり12歳位かと思ってた。

 でも改めて考えるといくら力を持つ魔族とは言え子供が森の中であんな大量の魔獣を討伐なんか出来ないよな。

 てか年上かよ。


「そおなの?随分と愛らしい姿だったから勘違いしちゃったわ」

「まぁ、わたくし年齢より若く見られやすいのよね、オーホッホッホッ」


 マヤのよく分からない喋り方は置いて、このおばあさんの背格好から見て遠出出来るとは思えないし手に持っている薬草のような葉を詰めてある手提げカバンを見るにメラニアの住人と思いこの街の事を聞いてみる事にした。


「おばあさん、前にメラニアに来た時は警備隊なんて居なかったんですけど、何か会ったんですか?」

「それがねぇ、何でもファウストって言う怖い人達を見かけた人が居たんだって」

「!?」

 

 ファウスト、この大陸に存在する最大規模の犯罪組織。ほぼ全ての国に構成員が居てその組織の総数もかなりの数だと言われている。

 殺人、窃盗、密売、とあらゆる犯罪を犯しその目的も不明で、大陸中で指名手配されていている程の大組織。

 そして俺の友の仇、ずっと旅をしながら情報を集めて来たけど直接的に繋がる情報は無く、噂程度だったけど今回は会えるかも知れない。


「シュウ?」

「……何でもない」

「だからね街を出入りする人を確認してるんだよ、顔を確認して刺青が入ってないかをね」


 ファウストは顔に翼の入れ墨を入れている、そして組織で力の強い者から黒、赤、紫、青の順番で青色の刺青を入れてる者が弱いが数が多い、赤色はそれぞれの街や国に1人づつ配属される指揮官、黒色まで行くとファウストの幹部クラスで1人で国を揺るがす程の力を持っていると言われている。



 



 そして俺とマヤはメラニアの街に入れた、マヤが魔族で、魔法で隠しているとは言え少し不安だったが特に呼び止められる事も無かったので安心した。

 人間の国や街では魔族の出入りを禁止している所もある、禁止にしていなくても魔族だと分かるとあからさまに嫌な態度を取る事が多い。

まだ魔人戦争が終戦を迎えてあまり時間も経って居ないので大人たちは冷たくあしらう、それを見た子供達も大人の真似をして距離を置いたりする。


「あんまり人いないね」

「ファウストが目撃されたんだ、領主から何か言われてるんだろ」


 ファウストは指名手配犯だ、そんな奴らが目撃されたなら外出を控える様にするだろ。


 俺達は当初の目的どうり討伐した魔獣の換金に冒険者ギルドに向かった。冒険者ギルドは国や街とあらゆる所に存在する、魔獣の被害が多い所だと小さな村などにもあったりするほど世界各地に点在している。


「おぉー此処が冒険者ギルドか!」

「あまり騒ぐなよ」


 冒険者は皆んな腕に自信がある者ばかりで、自我が強い。

 あらゆる種族が所属していて身分や経歴など関係無く強ければ誰でも冒険者になれる。たが信頼を損なう事をしたり犯罪に手を染めたら資格を剥奪される。


「なんだ?此処はひ弱な嬢ちゃんが来る所じゃねぇぞ?」

「……」

「そこの兄ちゃんのつれか?ロリコンも大概にしろよガーハッハッハッ!!」


 武装していて服の汚れ具合から見て依頼を終えて報告しに帰ってきたと思はれるハゲがからかってきた。

 まぁこうなるだろうとは思っていた、冒険者は大体自我が強いし喧嘩っぱやいしいつも誰かをからかってないと気が済まない様な悪ガキみたいな奴等だからな。


「おい」

「あ?」

「私はお前より強いぞ?」


 マヤが挑発してきたハゲに近寄り挑発仕返している。

 ……止めた方が良いかな。


「ほぉ言うじゃねえか嬢ちゃん、なら見せて貰おうかな」


 ハゲがマヤに手を伸ばす。


「触るな、ハゲ」


 ハゲが座って居た椅子が一瞬でマヤの手元に移動した。

 転移魔法の一種だろうか、相当精密な魔力操作が必要なはずだが。


「痛!!!」


 ハゲが尻餅を着いた。

 

「…………」

「「「ハッハッハッ!」」」」

「一本取られたなグリード!」

「おめぇの負けだよ!」


 マヤがドヤ顔をして、ハゲが赤くなった。


「てめぇガキ!やってくれたな!!」

「はいはい!そこまでですよ」


 ギルドの受け付けの人が仲裁に入ってくれて騒ぎは収まった。

 まさかマヤがあんなに喧嘩っ早いとは思わなかった。

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