第2話 魔族の少女

「ねぇ、シュウ」


 魔族の少女マヤと出会って一緒に旅をする事になった。

 この世界は、20年程前に起こった人間族と魔族との戦争、通称魔人戦争により人間族が、エルフ族やドワーフ族と手を組み勝利し、魔族は敗北し、ほぼ全滅されられた。


「……おーい」


 生き残った魔族達は迫害され住む場所を取り上げられたり、奴隷として無理な仕事をやらされたりしていてその数を減らしていき今ではほとんどその姿を見る事は無くなっていた。


「聞こえてるんでしょ?」


 どうしてそんな絶滅危惧種みたいな魔族があんな森の中にいたんだろ?人間の村で魔族だと隠して生きてる者も居ると言う話しは、聞いた事がある。

 魔族と人間族の違いは魔印と呼ばれる痣の様な物が魔族には身体の何処かに付いているらしい、それと人間と魔族とでは保有する魔力量と身体能力が大きく違う、魔族の方が圧倒的に多くそして強い肉体を持っている、だから魔印を隠して周りに合わして居ればバレない。


「…………えい」

「痛!?」


 急に背中に痛みが走り溢れ出しそうな涙を堪えながら後ろを振り向く。少女とは思えない程力が強い。

 

「……何?」

「何で無視するのよ」

「ごめん、考え事してた」

「ふーん、そお……で、私達は何処え行くの?」

「この先にメラニアの街って言う海洋交易を盛んに行ってる国があるんだよ」


 メラニアは海に面した街で魚介類や海辺などで取れた貝殻や真珠などをアクセサリーにして利益を得ていて。メラニア産のアクセや魚介は、品質が良く高値で売り買いされていて行商人などが多くとても盛んな街。


「へぇ〜、そこで何するの?」

「討伐した魔獣の買取と日用品の買い足しかな」

「ふ〜ん、魔獣って売れるんだね」

「……お前、今までどうやって生きて来たんだ?」

 

 普通旅をしている者ならある程度魔獣とやり合えるだけの力を持つのは身を守る為に必要だし、討伐した魔獣から売れる素材を剥ぎ取り、冒険者ギルドなどの素材買取場で金を貰いその金で破れた服を買い替えたり、壊れたり使い切った装備品を補充したりするんだが。

 

「別に普通よ、食べ物はそこら辺に居る魔獣で十分だし汚れたら川で水浴びすれば済むもの」

「魔獣を解体するには、道具が必要だろ?」

「要らないわ、私の魔法でちょちょいのちょいよ!」

「服が破れたらどうする?」

「この服は、ちょー頑丈だから破れないのよ!」


 まるで野生児だな。

 まぁ魔族ってだけで人は毛嫌いするし近寄ろうとも思わないからな、魔族の集落もあると聞いた事があるが噂程度で本当にあるかどうかは分からない、誰にも頼れないとなるとこういう生き方しか出来ないだろうな。


「…………その服は、自分で作ったのか?」

「私の育て親がつくってくれたの!」

「育て親?」

「そお! シオって言ってちょー可愛くてちょー優しい私の大好きなひと!」

「その人は、人間なのか?」

「シオも魔族だよ、ずーっとあっちの方にある、魔族達の村に住んでたの」

 

 北の方角か、噂話かと思ったら本当に魔族の集落があったのか。


「どうしてお前は、その大好きなシオって人と一緒に住まないで旅してるんだ?」

「……私、お前じゃない」

 

 ……こいつめんどくさいな

 

「どうしてマヤは、シオって人と一緒に住まないで旅をしてるんだ?」

「私ね、色んな世界を見たいの、海や山に森、みんなが住んでいる街や国、人間、エルフ、ドワーフとかがどんな生活をしているのかこの目で見て知りたいの!それに精霊や神獣なんかも会ってみたい!……村の人たちは、みんな優しくて、暖かくて好きだけど、でもそれでも私は知りたいのだから旅をして色んな事を体験して、自分の目で見て、そしていつの日か帰ったら村のみんなに話すの!」

「いいな、そういうの」

「でしょ!シュウはどうして旅人をしてるの?」

「俺も……同じかな」

 

 「色んな世界を見てみたい」か、そんな事考えた事も無かった。

 おれは小さい頃から周りの同い年の子に比べて身体が強かった、学は無かったけどその身体能力に任せて独学で鍛えて1人でも生きていける様に強くなろうとしていた。

 強くなれば魔獣を1人で倒しその素材で金を貰い生きていける、余裕がでればお世話になった孤児院にも寄付が出来る。

 そこに楽しみもなければ目標なんて物もない。

 自分が酷くつまらない人間だと思った。


「今更なんだけど私、魔族だけどシュウは嫌じゃ無いの?」

「気にしてない、俺が育った孤児院には魔族だと周りには隠していた子もいたし、……人間と変わらないだろ別に」

 

 そお、変わらないんだよ。

 ただ生まれ持った魔力量が違うのと魔印があるか無いかの違いだけ、でも人間はそれを嫉妬する。自分達には無いものを持っている魔族を。

 姿形が似ているからこそ余計にその差を自覚する、そして魔族よりも魔力量が劣る自分達は、劣った種族なんだと自覚するのが嫌だから数の有利や権力を使い高圧的に、あたかも自分達が上の存在なんだと自己顕示欲を満たす。

 …………くだらない


「そっか……シュウは、ちゃんと私達を見てくれるんだね」

「魔族だからと遠ざける奴なんてこっちから遠ざければいい、魔族だと知っても同じ接し方をしてくれる人間だっている」

「……シュウ」

 

 初めて会った時と同じ、何故か安心出来る様な微笑みを浮かべながら

 

「これからもよろしくね!」

 

 

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