それでも世界は美しい

パリスケ

第1話 出会いと旅の始まり

 辺り一面、濃い魔力の漂うあらゆる生き物が生存する事の出来ない、地獄の様な場所。

 切っ掛けなんて存在しない。

 それは偶然か必然なのか誰も知らない。

 地上を汚染し、空気が生物にとって、毒になる程の魔力が渦を巻き一箇所に集まって行く、それは形を成し、小柄な魔族を作り出す。


「…………」


 目覚めて、意識も朦朧とした中で、1人の魔族が宛も無く歩き出す。

 







 「はぁ……疲れた」

 

 一人、森の中でさっきまで討伐していたハイボア二匹を見て呟く。

 

「夫婦だったのかな……」

 

 そんな意味もない事を考えながら擦り傷に応急処置をして、ハイボアを解体して保存食にしていく。

 

「これぐらいなら、ある程度困らないだろ」

 

 肉の加工も終わり、辺りには魔獣の気配も無いし日も落ちてきた。

 

「今日は、此処で野宿かな……」

 

 今から街に行くとなると時間もかかるし着いても宿は全部閉まってるから仕方ないと思い眠りに着く。

 

(…………おかしい)

 

 旅をしていたら野宿をする機会なんて結構ある、でも虫の羽音や風による木々の騒めきもない、こんな無音な森の中は初めてだ。それに妙な胸騒ぎがする。

 横になった身体を起こし辺りを見渡す。


「…………!!」

 

 急に物凄い破裂音のような音が鳴り、側に置いてあった剣を手にかけ警戒する。

 

「……」

 

 このまま眠る事も出来ないので音の鳴った方へなるべく音を立てない様に近づいていく。

 歩みを進めていくに連れ徐々に血の匂いが強くなっていってる、魔獣同士が争っているのかと思ったけど魔獣の気配なんて無かった、人同士の争いかと目星を付けながら進んでいく。

 森の中に広い木々の生えない場所がありその中央付近に大量の魔獣の死体があった、そしてその死体の山を作ったと思われる人影がいた。

 

「ねぇ」

「!?」

 

 気付かれた。それなりに身を隠す事は得意だった、今まで自分の隠密で魔獣は愚か人にだって見抜かれた事の無かったのにバレた。

 

「何もしないから出てきてよ」

(……子供?)

 

 明らかに成人女性にしても、声が高い。

 こんな夜の危険な森の中で1人、しかも辺りには大量の魔獣の死体。明らかに普通の人間では無い、でもこのまま逃げるにしても相手は俺がここに居る事を知ってる、……敵意は感じられない、いつでも戦闘体制に移れる様に気構えて人影に近づいて行く。

 近づくにつれその姿がはっきり分かってくる、黒髪が肩ほどまで伸びていて紫色の瞳、背格好は子供。

 

「……お前は、何者だ?」

「私はマヤ、あなたは?」

「……シュウ」

「シュウ、君は……」

 

 俺を見定める様な目線を向けてくる

 

「?」

「何でもない――シュウ、良い名前だね!」

「…………それで、お前は何者だ? 普通、人間の子供がハイサーペントやハイベアを討伐なんか出来ない」


 ハイウルフやハイベアは小さい子供が倒せる様な弱い魔獣ではない、俺でも倒せる事は出来るけど簡単じゃない。

 少し迷ったが此処まで来て去る訳にも行かないので疑問に思った事を聞いてみた、もしそれで戦闘になっても良い様に魔法の準備といつでも剣を抜ける体制にしておく。


「私は……」


 少女がいきなり両手を合わせると、月明かりさえ閉ざされる程の濃い魔力を発して辺り全体が夜よりもさらに暗い世界を作り出す。

 

「魔族……」

 

 少女の瞳が怪しく、そして妖艶に輝き、何処か安心する様な優しい微笑みを浮かべながら

 

「魔に連なる者だよ」


 巨大過ぎる魔力の波に身体が、震えすらも起きないほど強張り、頭は真っ白になる、でも視線だけは少女から逸らすとこが出来ない、得たいの知れない魅力に惹かれる。


「……もし良かったら、私とお友達から始めませんか?」


 首を傾げながら言う。



 (は?)


 意味が分からない、急に血まみれの少女に「お友達から始めませんか?」なんて言われても。


「あ、あの……ほら!私1人で旅をしていて寂しいと言うか、誰か話し相手が欲しいなぁ〜て思ってて1人だと色々大変だし?もう1人居てくれたら安心だなぁ〜なんて思ってたところだし、私魔族だからシュウが良ければなんだけど。あ!別に何か悪さしようとかなんて全然これっぽっちも思ってないからね!シュウが良ければ一緒に旅がしたいかなぁーなんて……思ってるんだけど……駄目かな?」


 混乱しているのと、ものすごい勢いで喋って来るので何言ってるか頭に全然入って来なかった。

何て言えば良いのか分からず目に付いた事を言う。


「……取り敢えず血、洗い流したら?」


 マヤと言う少女が自分の身なりを見る。


「…………だね!」


 こうして俺は、マヤと旅をする。

 

 これが、俺とマヤの出会い。

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