第14話

 長椅子に腰掛けると、マロウがアールの肩に乗り、甘えた声で首周りを巻き付くように走った。


「ふ…っ、くすぐったいぞ、マロウ」

「みゅみゅっ」

「さっきの銀華蝶ぎんかちょう、見つけて連れてきてくれたんだよな。ありがとう」

「みゅ~っ」

「……これ以上、あの蝶たちをするようなことはできないか……」

(丁度いい頃合いなのかもな……)

「あ、先に戻ってたの? 一言声かけてくれたらよかったのに」

「! エレン…」


 またタイミングがいいのか悪いのか。悩んでいる間に、気付けばエレンが秘密部屋に戻ってきていた。彼女の様子からしても、蝶のことは見られていないようだった。躊躇うこともなく、隣に腰掛けてくる。マロウは二人の邪魔をしないためなのか、いつの間にか部屋の外へ飛んで行ってしまった。


「さっき何があったのか、セラヴィさんから聞いたわ。危ない人がガーデンに侵入してきた、って」

「そうか……」

「あと、その……侵入してきた目的が私だった、ってことも……」

「……」

「アールお願い、教えて……? どうして私は狙われているの? グラッツって人が私を狙う目的は何? あんなに急いで来て守ってくれたってことは、何か知ってるんでしょう?」

「……ごめん、ずっと話すタイミングを見失って、いや……話していいのか悩んでいた」

「それは、聞いてみないとわからないわ……」

「さっきよりも危険な状況に巻き込まれてもか?」

「……っ!」


 若干弱気になっている彼女の答えに、思わず強く当たる言い方をしてしまうアール。軽く強張った表情かおで見つめてくる様子を見て、すぐさま弁明する。


「ごめんっ、少し気が立っていた……あー、その、どこからどう話せばいいか……」

「……ううん、いいの。待ってる。アールがちゃんと話そうとしてくれているの、わかるから」

「取り返しがつかなくなる前に、ちゃんと済ませておきたいんだ……なのに、上手くまとめられない……」

「うん、ゆっくりでいいよ」

「ありがとう……エレンは……」

『先輩ーーーー!!』

『エレンっ! 無事ーーーー!?』

「~~~~っ」

「シェリーからだわ……」


 ようやく話を切り出そうとしたところで、見事なまでに空気を読まない通信が入り、腰を折られるのであった。それも、それぞれの通信機──花盤ディスクから。少し緊張がほぐれたのか、エレンも困ったように眉を下げながら、シェリーを宥めていた。アールも、せっかく意を決したところを折られたせいで、柄にもなく怒鳴ってしまおうかと考えが過ぎりつつ、冷静に応対する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る