第13話
エレンたちから離れると、メリヴァは声を落とし、先程とは違う態度で話し始めた。
「いつまで隠し通すおつもりですか」
「……いずれ話さないといけないことはわかってる。ただ……さっきのグラッツのこともある。今はまだ話せない」
「そろそろご自身も限界が来ている頃とお見受けしますが。あなただけじゃありません。私や、特にアンジュにだって近いうちに影響が及びます」
「あぁ、そうだな……そのことに関しても、もちろん念頭においておく。それと……あれから、残りの『守人』についてはどうだ?」
「ある程度目星は付いているものの、進展は無く……申し訳ありません」
「いや、謝らなくていい。大体の予想はついてた」
合流した時の『仲間』としての会話ではなく、『主従』関係のような立場の会話をする二人。メリヴァは表情こそ大きく変わることはなかったが、自分よりもアールの身を案じていることは容易に見てとれた。
「アンジュと共に、早急に探し出します。……お話されるのも、できるだけ早い方がいいと思いますよ」
「……わかった。そろそろ戻ろう、司令官たちも来る」
「はい」
二人が話し終え、エレンたちのもとへ戻ったタイミングで、アールの言う通り、セラヴィをはじめとした数名が空中庭園へ到着した。エレンは無事であることの確認と同時に、先程何が起きたのか、詳細な説明を受けている。その間に、アールは大樹の秘密部屋へそっと戻っていった。
「今なら大丈夫か……マロウ、いるか?」
「みゅっ!」
アールが見上げながら呼びかけると、天井部分の枝葉が一部開き、小さな生物がその隙間からアールのもとへ飛び込んできた。掌に乗るほどの大きさの白い体の生物。フルール・ミロワールに生息する、『ミュレー』と呼ばれる、この世界の生態系における重要な小動物である。アールは雄のミュレーに「マロウ」と名付け、パートナーとしていた。
呼ばれて嬉しそうに彼の周りを飛び回るマロウの傍で、銀細工の蝶も一羽舞っている。それに気付くと、アールはシャツの中から銀のロケットペンダントを取り出し、手に載せ差し出した。蝶は自然とロケットの上にとまり、胴体のクリスタルから魔力を送り込んでいく。段々と蝶から輝きが失われていく様子を見たアールは、咄嗟にペンダントを握り、蝶からの注力を阻止した。大半の魔力を失った蝶が弱々しく落ちていくのを受け止め、後方にある大樹の幹へ向かって歩いていく。
「無理をさせてごめんな……しばらく休んでいてくれ」
幹の表皮に生えている苔の笠をめくると、また不思議な空間が広がっていた。蛍のような淡い光が泡のように昇り、その間を縫うように光の蔦や枝が伸びている。さらにその先端には木の実のように光球が生(な)っており、その中に金や銀の蝶が身を任せるように浮かんでいる。アールが先程の蝶をそっと空間の中へ入れると、光の蔦がそっと受け止め、新たな光球の中へ保護されていった。光の泡の中へ漂っていく様子を見届けた後、アールは安心した表情で苔の笠を丁寧に閉じた。
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