第7話

 司令官室を出てからアールが向かったのは、隊員たちの鍛練場だった。多少強力な術を使っても問題ないよう非常に広大な空間が用意されており、何階分かもわからない程の高い吹き抜けになっている。アールが着いた頃にも、既に何人かが自身の技術を高めるため、鍛練に励んでいた。そこである人物を探すため、アールは足を踏み入れる。すると、入り口に程近い場所で鍛練していた少年が、ぶつかる勢いで走ってきた。


「アールようやく来たな!! 演習の相手しろ!! 今度こそ勝つ!!」

「あのな、ターボ。俺はそういうつもりでここに来たんじゃない。演習ならグレーシャーに頼め」

「兄貴は任務でいないんだよ!! お前は任務帰りで時間あるだろ!」

(任務帰りなの知ってたのか……)

「あいにく俺は俺で別の用事がある。他をあたってくれ」

「はあっ!? そう言って逃げんのか!?」

「……」


 何を言っても食い下がるターボに、「面倒なのに捕まったな…」などと溜息交じりに対応を考えていると、突然目の前のターボが消えた。否、。アールも一瞬目を丸くしたが、何が起きたのかすぐに理解した。シェリーが手をはたきながら仁王立ちしている。


「あんたねえ! アールさんまで困らせるんじゃないわよ!」

「シェリー、あの状態だと聞こえてないぞ」

「えっ、嘘。今ので伸びちゃうとか、ターボくん弱すぎな~い?」

「お、お前なあ!! あの飛び蹴りは異常だろ!!」


 シェリーの煽る一言で完全に覚醒したターボは、もうアールのことも見えていなかった。幼馴染である以上、こういった衝突は二人にとって日常茶飯事であり、まさに犬猿の仲という言葉が相応しい。そんな二人を治めることは困難だと判断したアールは、シェリーに「助かった」と礼を言いながら、再び人を探すためその場を静かに離れた。

 しばらく歩き、ようやく目的の人物を見つけ声をかける。


「デルフィノ、今いいか?」

「アール先輩、戻られてたんですね。ちょうどアマレットと休憩しようとしていたので大丈夫です」

「あぁ、そんなに込み入った話じゃないんだ。司令官から、この魔珠の保護をデルフィノに頼みたい、と言伝だ」


 弟と鍛錬していた手を止め、嬉しそうに駆け寄ってくるデルフィノと呼ばれた少年。簡潔に説明しながら、アールは彼に魔珠を手渡した。

 すると、デルフィノは魔珠を受け取るなり少し怪訝そうに眉を寄せ、まじまじと観察し始める。その様子を見たアールも、異変に気付き身構えた。


「兄さんってホント、アールさんが来ると嬉しそうだよね。頼られてるのも羨まし……」

「先輩、この魔珠、異常は無かったんです?」

「あぁ、司令官も普段通りに確認して、多少のはあるものの問題は無いと……まさか」

「これ、よくある揺らぎで済ませちゃダメなやつです……! さっきより魔珠の色も黒っぽく……え?」


 デルフィノの言う通り光の箱の中にある魔珠は、先程まで美しい青色の宝珠だったが、段々黒く変色していき、最終的に

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