第6話

「……ごめんね、アール。不快な思いをさせてしまったわね」

「いえ……どちらにしても、あいつから聞き出さないといけないことがありますから」


 男が起きないことを確認し、再び光の檻に収監し直しながらセラヴィは謝罪した。アールは未だ険しい表情を崩さず、男を蔑んだ目で睨んだままだ。そんな彼を心配そうに見た後、セラヴィは光の檻に触れながら一言呟いた。男の入った檻は瞬時に消え、部屋には二人だけが残った。


「……アール、もうそんな顔しないで。彼ならもう移したから」

「あっ……すみません。つい……」

「いいのよ、私はあなたの事情も知ってるから。ただ、エレンの前では気をつけた方がいいわね」

「はい……」

「さて、回収してもらった魔珠の状態は、っと」


 セラヴィは、机の上にある特殊な台に魔珠を乗せ、手を翳しながら状態を確認する。「魔珠」とは、フルール・ミロワールにおいて、各地域に点在する魔力資源のようなもの。この世界が神秘的な魔力に満ち、その魔力を生命力として生物が活動しているのも、魔珠の恩恵によるものだ。見た目はただの宝珠と見違えるが、それに蓄えられている魔力量は計り知れない。これらはそれぞれ決まった場所に自生し、その地域の生命力を維持するために注力している。そのため、魔珠を持ち去ることは一つとして決して許されないことだ。

 しかし残念なことに、反政府組織「エデン」による魔珠強奪事件が勃発し、フルール・ミロワール全体の魔力維持のバランスが崩れているため、それを阻止すべくガーデンも忙しく動いているのだった。


「……うん、多少魔力の揺らぎは見られるけど、大事にはなってないわね。アール、これの保護をデルフィノに頼んでおいて」

「え、このまま俺が戻してきても…」

「あなたは休みなさい」

「わ、わかりました……」


 再び任務として外へ行こうとするアールを、有無を言わさない一言で抑えてしまうセラヴィ。彼女の静かな圧には、さすがのアールでも逆らえないようだ。セラヴィが魔珠を持ち上げるなり、薄いヴェールの様に光が巻き付く。それを大事そうにアールに手渡し、仕上げにさらに術を施す。アールの手には、光の箱に収まった魔珠があった。


「それじゃあ、よろしくね。今回も早く終わったからとは言え、任務は任務。あなたはただでさえ出ずっぱりなんだから、休めるときにちゃんと休んでね」

「……はい、ありがとうございます」


 アールの肩を軽く叩きながら、セラヴィは優しく微笑む。その笑顔を見て何かを思い出したのか、アールは少し顔を歪ませた。複雑な表情のまま、礼を言って司令官室を後にする。そんな彼の背中を見送りながら、セラヴィも困ったように微笑むのだった。


「お母さま、早く見つかるといいわね……」

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