第4話
自分の代わりに怒っている二人を宥めながら、エレンは去っていくアールの背中を見つめた。
(確かに気になるけど……「今は」って言ってたから、いずれ話してくれるってことよね)
アールの背も見えなくなった頃、気が済んだのかセーラもその場を後にしようとする。
「あ、まだ勉強の続きがあるんだった! ロサートさん待たせちゃう!」
「セーラ? そっちは方向逆じゃない?」
「図書室で本探しに行く途中だったの! お姉ちゃんにシェリーさんも、ゆっくり休んでねー!」
「ありがとー! セーラちゃんもお勉強頑張って♪」
「はーい! また後で!」
パタパタと走り去るセーラを見送り、エレンとシェリーは自室へと戻っていった。
そしてセーラは、目的であるはずの図書室へ向かう手前で、アールのもとへ追いついていた。それに気付いたアールは少しばかり目を見開いている。
「……セーラ?」
「本当にお姉ちゃんに話すつもりないんですか?」
「あぁ、写し子のことか……もちろん、話すつもりはないよ」
「でもさっきお姉ちゃんも聞いて……!」
「後でその記憶だけを消しておく」
「そんなことをこれからも続けるつもりですか!?」
「……」
「ずっと話さないって、正直無理だと思います。お姉ちゃんだって、そこまで無知じゃないですよ」
セーラの言葉に、アールは足早に向かっていた歩みを止める。少し俯き、唇を噛み締めて悔しさを滲ませた。
「何が最適解なのか、いろいろ考えてはいるんだ。なのに……なのに、結局エレンを苦しめている自分が、心底腹立たしくて仕方がないんだ」
「アールさん……その、ごめんなさい。生意気なこと言いました……」
「いや、俺の方こそ、セーラにまで気を遣わせた。ごめん」
表情を見せないまま、再び前を向くアール。しかし、歩き始めるより前に、セーラに疑問を投げかけた。
「セーラ、お前は……お前自身、自分が何者なのかわかっているのか?」
「……え?」
「……いや、いい。お前にもいずれ話す……それより今は、早くロサートの所に行って術の勉強頑張ってこい」
「あっ!? そうだった! 教えてくれてありがとうございます! 本探しに行かなきゃ!」
アールからの指摘でようやく気付いたセーラは、慌てて図書室へ向かって走り去って行った。小さな背中を見送ると、ひとり軽く息を吐く。そこへ「早く報告に来るように」と通信も入る。休む間もない、と零しながら、再び報告のために歩みを進めた。
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