三章 軌跡
頭がガンガンする。
酔いたいがために無理矢理飲んだ日本酒のせいだ。お米から作られる日本酒は、日本人の遺伝子に合っていると聞いたことがあるが、そんなのは嘘。と、思うも、僕には「ゲレ」の血が流れている。純血の日本人ではないじゃないか! と、自分自身にツッコミを入れた。金輪際、日本酒を飲むのはやめておこう。きっと僕にはブラジル生まれのラム酒なんかがお似合いのはずだ。
先程、交換した元カノからのLINEがなる。
ツーショット写真に「サッカー頑張ってね」と、メッセージが添えられていた。クルクルと回って倒れるスタンプは、泥酔した僕のオマージュだろうか? それにしても酷い写真だ。笑顔ではあるが、引き攣っていることが一目瞭然。これが六年振りの再会かと思うと、情けない。よく見ると、僕の頭の後ろから、人差し指が突き立てられている。きっと女子バレー部のキャプテンだろう。
僕と元カノの物語は「同級生」という群像劇のエチュードでしかなくて、この写真の向こう側には、たくさんの物語が重なり合っている。ドジョウすくい、主演尾栗。それもまた一つの
そして、その写真をみて気付いたことがあった。
付き合ってから初めて撮った、たった一枚のツーショット写真。最初で最後の写真。臨海学校で撮ったその写真を、僕は捨てることが出来ずに引き出しの奥にずっとしまい込んでいた。あれ、どうしようかな? 僕の原点として、これからも御守りがわりに持っておこうかな? 御守りがわりか……。
母の顔がよぎった。
遺伝子って凄いな。ちゃんと受け継がれている。なんだか恥ずかしくなった。
「おうよ!」のメッセージと一緒に、「どーもすいません」と謝るおじさん芸人のスタンプを元カノに送る。六年間ものしがらみを代行して謝ってくれるおじさん芸人に
返信されたキラキラとした小さなハートに心躍るも、深追いは厳禁。僕の初恋はこれで成仏。そっとLINEを閉じた。
吐いたのにもかかわらず、覚めない酔いのせいで、本日二度目のコンビニに立ち寄ることになった。深夜のコンビニ。客は僕しかいない。レジの前に立つと奥の扉から、面倒くさそうに店員がやってくる。同窓会前に寄った時と同じ奴。ネームプレートのバーコードをスキャンしてレジを立ち上げる。
僕は食べ損ねた杏仁豆腐と、追いウコンを購入。
「レシートは結構です!」
酔った勢いもあり堂々と言ってやった。
慣れた手つきで店員がレシートを捨てる。
なんでもかんでも引っかかるから、つっかえる。
流れにまかせて身を委ねれば、すべては順風満帆。僕の月読命は杏仁豆腐で封印。ゲロまみれの口の中に、グレープフルーツ味のウコンドリンクを流し込んだ。アルコールで火照った身体に染み込んでいく。長い年月をかけて大地に磨かれた雪解け水は、濁りのない清らかな味わいになる。
青春は甘酸っぱいレモン味? 違う。
酸味に酸味を重ねた、
ゲロくさな甘酸っぱいグレープフルーツ味。
これが結局、僕の青春の軌跡だった。
もし、今までずっと信じていたものが全部、
間違っていたとしたら──
宇宙人は存在した。
世界はパラレルワールドだった。
聖徳太子は実在しなかった。
織田信長は生きていた。
昆虫は宇宙からやってきた。
植物は意志を持っていた。
車は水で動く。
お金は紙屑。
女性はどスケべ。
世界のルールや価値観がひっくり返ったとしても、それでも一緒に楽しんでくれるのが、
「理解者」、なのではなかろうか?
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