三章 聖剣

 ──聖剣エクスカリバーの伝説。


 アーサー王の物語においてエクスカリバーは、千の松明たいまつ如く輝き、鋭い切れ味を持つ。さやには、あらゆる病を治癒する能力を宿し、剣とさやがある限り、所持者は無敵になれるといわれた。


 一つの剣のように語られるエクスカリバー。

 しかし、エクスカリバーは存在していたとつづられる。



 大理石と鋼の台に差し込まれた剣が現れる。騎士達が引き抜こうと試すが、誰にも引き抜くことができない。

 先代の王の実子で、自らの身分を知らずに育ったアーサーが剣を引き抜いた。

 それによって王の血筋、正当な王位継承者であると証明され、アーサーは王の座に就く。


 アーサーは引き抜いたエクスカリバーを持って全ヨーロッパの王となる。しかし、ペリノア王との戦いの際に剣を叩き折られてしまう。その後、湖の貴婦人から新しいエクスカリバーを授かる。

 アーサー王は新しい剣を携え、最期を迎えるまで戦った。



 二本目のエクスカリバーは剣ではなく、それを収める『』に強い魔力が秘められていた。と、記される。




♢♢♢



 誰もいなくなった教室は、不思議と突然、焼きたてのパンのような甘い香りが漂う。

 松果体を刺激するノスタルジックな異世界の香り。


「静様、Gアカデミーの生活はいかがでしたかな?」


「しかし大叔父さんの嫌われようったらなかったね! いつも話が長すぎるんだよ!」


「ほっほっほっほ。伊達に人生経験を積んでいるわけではありませんからね。嫌われているうちが華ですよ」


 大叔父さんと俺は、プロジェクト終了後の教室で、膝を突き合わせていた。


「で、気になる深井選手はどう判断されましたかな?」


「うーん。どうだろうね。まだ分からないかな」



「理論に基づいて生産される競走馬でもは「まぐれの配合」「偶然の産物」などと呼ばれています。血統は未知な部分が多く、狙って名馬を誕生させることは困難。人間でも同じだということは、よく理解しております」


「ただ一つ言えるのは配合理論に、ブルードメアサイアー(BMS)と言われるものがあります」


「BMS?」

 また出た。アルファベット三つ。

 大叔父さんが難しい単語を口に出した。


「BMSとは、繁殖牝馬ののことです。血統を語る上では、直接の牝馬よりも、牝馬のを重要視いたします。つまりは直接の父馬とで考えられます」


「この理論を当てはめると「ゴッド」×『』がニックスだったのかも知れませんね」


「……なるほど。それを永遠のサッカー小僧「キング」に阻まれた。て、わけだね」


「ゴッドの遺伝子のストックはまだあります故、阻まれたと決めつけるのはよくありません。『』つまり深井選手の『』。まだ若いですしね」そう言って、大叔父さんは含みをもたせた笑みをみせた。






♢♢♢







 颯爽とした初夏の風が吹く頃、

 三ヶ日と校長が、僕と『』の前に現れた──







 完



 ※ この物語はフィクションです。賭博行為や未成年者の飲酒は法律で禁止されています。また、登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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