三章 魔王軍

 ユニークスキル。

 月読命つくよみは、の感情と連動する。

 うらみ、ねたみ、そねみ、怒り。

 それらすべてのネガティヴエネルギーを原動力に変換する。


 

 騎士団長からのロングフィードに、シーフが斥候の如く走り込み1点を失った。2対2。


 追いつかれてようやく月読命が発動。

 眼球が色に染まる。そう、この感じ。

 怒りのネガティブエネルギーが闘争心として変換される。

 スラム出身者が貧困を脱出するために、サッカー選手を目指すモチベーションと似ているかもしれない。ハングリー精神。負けているからこそ、エネルギーが増幅される。つまり月読命は負の遺産であり、闇と敗者のユニークスキル。


「ニンニンニンニーーーーン」

 シーフのふざけたゴールパフォーマンスに腹が立った。

 フィールドを俯瞰で、碁盤の目のように広く見渡せば見えてくる。こいつの攻略はディフェンスラインを下げること。フリーの走りに比べて、ドリブルは脅威ではない。スペースさえ開けなければ封じられる。

 ディフェンスの動きは主に二つ。チャレンジ&カバー。一人がボールを奪いに行くチャレンジ。もう一人がフォローに入るカバー。二人でボールを奪うのが基本。

 センターバックの二人は相性が良い。熱い男こと炎の魔人イフリートが気迫溢れるプレイで奪いに行く。フィジカルに秀でた屈強なゴーレムがカバー。衛星と惑星のように補完関係がうまく機能している。


 深さを取ったディフェンス陣の前にシーフが餌食となった。イフリートが灼熱の炎で焼き焦がし、ゴーレムがブロックで痛烈に跳ね飛ばす。

 スピード自慢のシーフも成らずの香車と同じで打つ手なし。八方塞がりのシーフは下唇を噛んだ。


「グ、ググググ……」

 温室育ちのおぼっちゃまが、世知辛い世の中の壁にぶちあたったかのような苦渋の表情をみせている。

 

 ざまぁみろ!

 これぞアニメの王道展開。視聴者が求める、ざまぁ系。散々コケにされた主人公が成長してやり返す。気分爽快。ストレス解消の復讐劇。

 デカパイ女はオッパイが大きければモテると勘違いしてやがる。大事なのはバランス。ボン、キュッ、ボン。目玉の親父のような乳首など論外だ。

 


 シーフの攻略はできたものの、ディフェンスラインを下げることで新たな弱点が生じる。ディフェンスと中盤の間にスペースができてしまうこと。

 そのスペースを埋めるのがボランチを務める木関キセキ。中盤の底に位置をとる守備的ミッドフィルダー。広範囲に動き攻撃の起点となる芽を潰す。彼の奇跡的ミラクルなプレイに何度救われたことか。安心してディフェンスラインを下げられるのは彼の存在が大きい。

 大地の下で世界を支える巨魚、バハムートとでも呼ばせてもらおう。


 黒魔道士が巨大な魔法陣を敷いて詠唱している。

「闇の世界からいでし、暗黒竜よ……」


 なげーよ! 

 無詠唱でやりやがれ!

 

 チームメイトが痺れをきらした。詠唱中をいいことに裏のスペースにパスが放り込まれる。

 敵の攻撃陣が飛び込んだ。

 相手にボールが渡る前にバハムートが奪取する。幅広い視野を持ち、パスコースを予測して先回りする。一対一の決闘デュエルにも強い頼もしい存在だ。まさに神業、ミラクルプレイ。彼の土台の上で世界は成り立っていると言っても過言ではない。


「ナイスインターセプト!」

 バハムートが迫り来る猛攻を凌いだ。

 回収したボールが前線へと繋がる。

 右サイドバックの獣人族が駆け上がることで数的有利な状況を生み出す。ディフェンスから中盤。さらに前線と神出鬼没に走り回る獣人族。ハードワークは黒子的役割りを担う。守備、繋ぎ、攻撃と三つの顔を持つ、その姿は冥界の番犬ケルベロス。三つの頭を持ち、亡者の魂をどこまでも追いかけて喰らう。

 ケルベロスが加わり厚みを増した右サイドからの攻撃。城壁を死守しようと騎士団長が率いる隊列が右に寄った。僕はディフェンスが右に偏ったのを機に左サイドにパスを流した。


 左ハーフスペース。

 支配者の玉座。

 左斜め45度。


「漆黒の炎よ、光を喰らいて焼き裁け」


 待ちあぐねるほどの魔法詠唱。禍々しく輝く闇の粒子が黒魔道士の脚元に蓄積されていく。


「闇魔法、アルティメットファイア!」


 左サイドからカットインした黒魔道士がファーサイドへ巻きつくような漆黒の火球を蹴り込んだ。

 ウエートが乗った強烈なシュートは急激なフックをみせゴール右上隅を射抜く。冥府の黒炎がネットを焦土と化した。3対2。


「深井! ドンピシャなパスだったぜ!」


 うるせー!

 お前は無詠唱で魔法を使えるまでは、初期ジョブ黒魔道士のままだ。魔法剣士マジックナイトにジョブチェンジを希望する。


 パーティーを持たないSランク冒険者、成田。

 鉄仮面で素顔を隠す。

 鋼鉄の鎧で身を覆い、すべてを遮断する。

 ケルベロスが走る。アサシンが潜む。黒魔道士の強力魔法。オーディンの飛翔ひしょう。成田が求めていることだった。彼らが機能することで新たな道が開いた。掻き乱された騎士団を前に成田が鉄仮面を脱ぐ。


 その素顔は、むくろに真円の黒い窪みが二つ。


 狭いスペースを縫うように成田が踊る。

 繊細なタッチと正確なボールコントロール。

 トップスピードの敏捷性は死の輪舞曲ロンド

 密集したペナルティエリアを浮遊する。

 ひらり、ひらひら、とん、ひらり。

 カンテラの幻想的な灯りと、黒い布切れだけが揺らめいていた。

 ゴールキーパーに向けられた最後の一振りは、大鎌の如く魂を刈りった。

 死神タナトス。4対2。




♢♢♢


 キセキ

 菊花賞馬。数々の名勝負の舞台に顔を出しており、特に4歳以降のグランプリファン投票では八期連続の一桁順位に居続けたことからその人気ぶりがわかる。奇跡という漢字表記の馬が他にいたため、キセキは「神業」と記した。



♢♢♢


 2組 監督 安田


FW11 成田 死神タナトス

FW9 真弥野 オーディン

MF10 深井 魔王

MF7 須定 アサシン

MF8 英進 黒魔道士

MF6 木関 バハムート

DF5 川上 獣人族 経験済み ケルベロス

DF4 中山 イフリート

DF3 里乃 ゴーレム

DF2 新山 ゴブリンロード

GK1 美輪 勝負師 

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