三章 決戦
公式戦十戦目。
この日の三ヶ日は神懸かっていた。
スピード、キレ。
ギアが一段上がっていた。
ハイエルフからさらに神格化した三ヶ日は、民衆をひれ伏せさせるかのようにゴールネットを揺さぶった。学校の頂点に君臨し、支配するその姿はまさに
三ヶ日よ。
やってくれるじゃねぇか?
今まで手を抜いてやがったな。
子供の頃から分析能力に長けていた。
どんなことでも違和感にすぐ気がついた。
本質を
だからこそ、無理なものには挑まず、すぐに諦めた。傷つかないために。自分を守るために。
三ヶ日のようなサッカー選手になりたかった。
スピード、テクニック、フィジカル。
それに加えて美貌までも持ち合わせる。完璧だ。
素直に受け入れて、認めることができなかった。
すべてを
いつか見てろよ。そのいつかのために、
爪を研いだ。気づいたら爪がなくなっていた。
いや、なくなったんじゃない。
初めから爪なんてなかった。
あるのは、聖剣じゃなくて股間を突き立てた、勇者に憧れる欲望まみれの自分自身だった。
他人の分析ばかりしていて分からなかったよ。
心の奥底に居座っていた奴は、
勇者じゃない。
聖剣じゃない。
川上に言われてようやく気づいた。
自分は『闇属性のテイマー』。
ユニークスキル
・
闇の心眼で本質がみえる。
「間」の中に「魔」がみえる。
色々なアニメを観てきたが、
『闇属性のテイマー』なんてキャラは観たことがない。
自分では何もできない最弱職のテイマー。
しかも闇属性。ダークファンタジーの主人公か?
光と影(闇)の本質。
光が強ければ強いほど影は色濃くなる。
入学してからずっとお前のような強い光に
おかげで、知らず知らずのうちに影も強大に成長した。ベクトルを自分に向けて気づいたよ。
『闇属性のテイマー』
魔獣を従えるもの。
それはすなわち魔王。
アニメ界では闇落ちした主人公として描かれることも多い。三ヶ日よ。お前が聖なる力を持つ神や、勇者とするならば、僕は魔王。それでいい。
冬枯れした芝の上を吹き荒すさぶ、突くような風。見上げれは、陽射しを遮る銀灰色の凍空がどこまでも広がっている。0対1、三ヶ日の圧倒的な能力。
【準備が整いましたらお声をおかけ下さい】
【もう準備が整ったのですか?】
▶︎はい
いいえ
最終決戦。お決まりのイニシエーション画面が頭に浮かんだ。
最後の確認が終わる。
ラスボス戦が始まった。
人生にセーブ機能はない。
サイドからセンタリングを狙う。
真弥野のヘディングを警戒して二人がかりのディフェンダーが体を入れて密着する。
「成田チェック!」
騎士団長の掛け声と共に、他のディフェンス陣は成田のマークに動く。逆サイドから走り込む成田へのパスコースが塞がれたと同時に、中央のスペースが十戒のように割れた。
地を這うグラウンダーパスを亀裂めがけて放り込んだ。後方に潜んでいたアサシンが飛び出す。
目の前には敵がいない。裂け目を高速ドリブルで激走すると、そのままキーパーの寝首を掻いた。アサシンの右脚が枯れた芝を
魔王軍の切り込み隊長。アサシンは影に潜むシャドウストライカー。暗殺者は姿をみせることなく、任務を遂行する。
「1キルゲット」
得意げな視線を向けられた。本人もこのキャラが気に入ってるようだ。ノセるのもテイマーの仕事のうち。
批評と分析は違う。他人を落として満足するのではなく、分析して自分に落とし込む、だ。
ついでに我が魔王軍のディフェンダー陣を紹介する。まずは門番を務めるセンターバックの二人。
筋肉バカの
もう一人は
サイドバックの二人は獣人族とゴブリン。いや、ゴブリンの君主ゴブリンロードといっておこう。
サッカーはチームプレイ。それぞれが主人公の群像劇だ。自分だけが主人公ではない。自分にとってのサイドストーリーは彼らにとっては本筋。求めているものがあって、それと同じように求められているものがある。
そこに真正面から向き合った時、「
「痛っー!」
ほらね、違うドラマを生きる主人公がしっかり自分の物語で躍動する。ゴブリンロードがファウルをもらってフリーキックが与えられた。
さて、出番がきたようだ。
空中戦では分がある。真弥野がいる。
巨大な弓の砲撃兵器バリスタを配置するかのような厳戒態勢が敷かれる。飛竜を撃ち落とさんとばかりに、鋭い無数の眼光が黒曜石の如く光っていた。
蹴り入れたボールに合わせて真弥野が飛ぶ。
「うおおおー!」
口元から溢れる息が、闘気の噴煙となって白い軌跡を残した。
雲を裂き断ち天を翔る姿は飛竜でもペガサスナイトでもない。重武装の天馬に跨りすべてを破壊する、死の将軍オーディン。
対空兵器を斬鉄剣でなぎ払い、天から放つ一撃。人馬一体となった体から捻り出されるヘディングシュートは投槍グングニル。
「どおりゃああー!!」
リーゼントの先がターゲットをロックオンすると、大気圏を抜けた隕石のような軌道でゴールに刺突する。
ズバーン!!
爆風を帯びたヘディングシュートがネットを貫いた。駆け降りたオーディンの背中を見つめながら思う。魔王軍が世界を支配すると。2対1。
♢♢♢
サトノダイヤモンド
競走馬のセリ市の中で最も高級と言われているセレクトセールにて2億4,150万円という高額で落札された馬。菊花賞、有馬記念を制している。
ナカヤマフェスタ
宝塚記念で8番人気ながら下馬評を覆えして優勝。同年の凱旋門賞ではワークフォースのアタマ差の2着と世界を驚かした。
♢♢♢
2組 監督 安田
FW11 成田 Sランク冒険者
FW9 真弥野 オーディン
MF10 深井 魔王
MF7 須定 アサシン
MF8 英進 黒魔道士
MF6 木関
DF5 川上 獣人族 経験済み
DF4 中山 イフリート
DF3 里乃 ゴーレム
DF2 新山 ゴブリンロード
GK1 美輪 勝負師
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