三章 Gプロジェクト

「Gアカデミー」

 ここに集められた生徒は『ゲレ』の遺伝子を運ぶもの。

 Gキャリアーと呼ばれる。

 彼らを分かりやすく解説すると、


『ゲレ』→「ゴッド」→「両親のどちらか」→「彼ら」となる。


 ちなみに俺は、

『ゲレ』→「祖母」→「父」→「俺」となる。


 プロジェクトGの全貌は『ゲレ』の3×4のインブリード。つまり「彼ら」→『娘』×「俺」の配合が目的。

 彼らの『娘』こそが、プロジェクトG「最後のピース」。

 彼らの能力を間近で見極める。それが三ヶ日サンデーグループの御曹司である、俺、三ヶ日静ミッカビシズカの役割。


 配合理論はブラッドスポーツ、競馬によるところが大きい。サラブレッドと呼ばれる競走馬は大きく三種類に分けられるそうだ。


 日本型。

 日本の芝のレースに適した血統。

 競走馬の主流血統。


 米国型。

 アメリカの競馬はダートしかないため、ダートに適した血統。スピードに優れ、成長曲線は早熟。


 欧州型。

 ヨーロッパの重い芝に適した血統。スタミナとパワーに優れ、成長曲線は晩成。


 日本型×日本型は、血の系統が近く、近親交配になるため危険な配合といわれる。そのため競走馬は、


 日本型×米国型

 日本型×欧州型


 で、生産される。日本馬がフランスの競馬場でおこなわれる凱旋門賞を勝てないのは、主流血統の適性の違いが大きいそうだ。


 また、遺伝子には引き継がれやすい遺伝子。(優勢遺伝)引き継がれにくい遺伝子。(劣勢遺伝)があり、劣勢遺伝を持つ競走馬は引き出し型と呼ばれる。有名なのはキングカメハメハ。

 米国型の種牡馬のため、優秀な日本型の繁殖牝馬と配合することで繁殖牝馬の能力が強く遺伝する。

 代表的な産駒はドゥラメンテ。

 米国型キングカメハメハ(G1馬)×日本型アドマイヤグルーヴ(G1馬)の配合馬でG1を二勝。種牡馬入りを果たした。


 繁殖は遺伝特徴と系統を考慮して生産するのがベースになる。サラブレッドを生産するにあたってインブリードと並んで重要視されるのがニックス。(相性のよい組み合わせ)。黄金配合とも呼ばれる。


 代表的なのは、

 ステイゴールド×メジロマックィーンの娘。

 この組み合わせはオルフェーヴルやゴールドシップなどのG1馬を多数輩出した。

 ステイゴールドの種牡馬時代、メジロマックィーンを父に持つ牝馬は、繁殖牝馬ではない乗馬用の馬にまで種付けされたという。


 プロジェクトGは当初、ニックス(相性のよい組み合わせ)を探すことが目的だったらしい。

 

 ゴッド×「?」


 大きく分けて三系統の競走馬とは違い、人間ではなかなか難しかったそうだ。ゴッドの遺伝子で唯一、成功したのが新山選手。元日本代表でGアカデミーにもコーチとして参加してもらっている。


 そこで確実なインブリード(近親交配)へと切り替えられた。そもそも人間でやるか? という話になるが、日本では従兄弟いとこ同士の結婚が認められている。従兄弟とは祖父母が同一人物。配合理論は2×2ということになる。しかも祖父と祖母。二本のインブリードが発生する。

 競走馬では血が濃すぎる危険な配合とされ、敬遠される。3×4のインブリードなら人間でもなんの問題はない。



 遺伝子はA.T.G.Cを使ってアルファベット三文字で表される。例えばCCGはプロトリン。三文字がワンセットで、その塩基配列をコドンと呼ぶ。



 入学初日、変な男に絡まれた。

 尾栗といった。


 PK5本勝負でどちらが上か決めたいらしい。

 これはあくまでも俺の自論だが、PKなんて、そもそもサッカーの本質と違う。無理矢理、勝敗をつけるために、とってつけたルールだ。

 野球でいえば、バッターとピッチャーの一球勝負に勝敗を委ねるようなもの。勝敗をつけるならコーナーキックからのセットプレイだと思う。

 メロドラマにありがちな大恋愛の末に破局。翌年、彼女は別の人間とあっけなく結婚。そんな結末にも似た儚さがある。

 儚さにはびがともなうが、PKには非情さしかない。と、サッカー少年を代表して気持ちの丈を述べてみたが、どんな世界でもルールを変更することは容易ではない。


 サッカーの起源は諸説ある。中国の「蹴鞠」。切り取った敵将の首を蹴り合い、戦勝を祝ったイングランドの「お祭り」。球体を蹴り合いお金を賭けた遊び、イタリアの「カルチョ」。いずれにしてもその歴史はかなり古い。但し、近代サッカーの礎となったルールを制定したのは、1863年、英国サッカー協会だと言われている。

 数あるスポーツの中でもサッカーは特にルール改正が難しい。世界で最も競技人口の多いスポーツだからこそだろう。

 20世紀に入り、アメリカがゴールを大きくしようとして国際サッカー連盟に怒られたというエピソードがある。馬鹿げた話に聞こえるかも知れないが、スポーツをショービジネスと捉えるアメリカは、よりエキサイティングな試合を望むため、独自でスポーツのルール改正を頻繁に行う。例えば、NBA(アメリカプロバスケットボールリーグ)は国際球よりも小さなボールを使用している。その方がハンドリングがしやすく、エキサイティングなプレイが生まれるからだ。

 ちなみにサッカーのPK戦は1970年代に導入されたルールで、それまでは、延長戦、再試合、コイントスで勝敗を決めていたらしい。

 まあ、いずれにせよ、権力者が決めたルール。長い歴史の中で成り立ってきた今あるものを変更するには簡単ではないと言うことだ。



 5本勝負か……。

 3本先に外せば早く終わるな。

 俺はわざとシュートを外してやった。

 付き合うのがめんどくさい。


 こいつの遺伝子配列コドンはAGC。

 アホな、G、キャリアー。




♢♢♢


 サンデーサイレンス

 日本の血統図を塗り替えた競馬史上最高の種牡馬。1995年から2007年にかけて、13年連続でリーディングサイアーとなる。中央競馬における種牡馬に関する記録の多くを更新した。リーディングサイアー、連続リーディングサイアー、通算勝利数、通算獲得賞金、通算重賞勝利数、通算GI級競走勝利数、年間勝利数、年間重賞勝利数、年間GI級競走勝利数、年間獲得賞金額、通算クラシック勝利数、1週勝利記録はいずれも最多記録を保持している。

 また、中央競馬・地方競馬をあわせた通算勝利数は3721勝で、当時の世界最多記録であった。

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