三章 アダムとイヴ

「アダムは『ゲレ』の遺伝影響が強く出ており容姿も異国人のようでありました。我々は彼をロモス・瑠偉ルイと名付けサッカー選手として育てあげました。のちと呼ばれるようになったのがアダムこと、ロモス・瑠偉ルイです」と、大叔父さんは続けた。


「凄いね……。初めて聞いた話だよ」

 ゴッドことロモス・瑠偉が国家戦略として造られた『ゲレ』の息子? こんなの世間に知られたらひっくり返るよ。と、仰天する。


「一方でイヴの方は『ゲレ』の遺伝影響が弱く、普通の女の子として大事に育てられました。受胎させた女性がであったことも大きかったと思われます。つまりイヴは静様の、現在のにあたります」


 婆さんがゲレの娘?

 ってことは、俺に『ゲレ』の遺伝子が組み込まれている?


「研究はアダム(ロモス・瑠偉)によって進められました。アダム(ロモス・瑠偉)の遺伝子を数多あまたの人間に受胎させ、沢山の子供達を造り上げました。テーマは(相性の良い遺伝子の組み合わせ)の研究でした。優勢遺伝。劣勢遺伝。遺伝子の伝達実験は困難を極め、その成果は散々なものでした。虚弱体質や脆弱な子が産まれることが多かったのも事実です。若くして命を落としたものもいたと報告を受けております」


 たしかに男性の遺伝子なら無限に繁殖を増やせる。女性の場合は体外受精だとしても母胎が必要。

一年に一人しか子を産めない。繁殖としては効率が悪い。


「そこでプランをニックスから(近親交配)へと切り換えることにしたのです」


 近親交配?

 なんだか危なげな響きに嫌な汗が吹き出した。



「インブリードには「奇跡の血量」と呼ばれる数字があります。理論名としては発表者であるM・S・フィッツパトリックとL・A・ラックブーの名前から「フィッツラック繁殖説」と呼ばれています」


「血量はパーセンテージで表されます。

(父もしくは母)一世代前50%

(祖父もしくは祖母)二世代前25%

(曾祖父もしくは曾祖母)三世代前12.5%

(高祖父もしくは高祖母)四世代前6.25%


「奇跡の血量」とは12.5%+6.25%=18.75%

のことをいいます。


分かりやすく説明しますと、交配相手のひいじいさんと、ひいひいじいさんが同一人物だった場合、より強く遺伝の影響が出ます。競馬ではこれを3×4のインブリード(クロス)といいます」



「ちょうどその頃、イヴ(お婆様、会長)は一般人の男性、私の兄と結婚をし男児をお産みになられました。それが今の社長でございます。静様の父上になられます」


「つまり俺は三世代前に『ゲレ』がいるわけだ。曾祖父ひいじいさんが『ゲレ』なんて感動するな! 俺のサッカーセンスは『ゲレ』譲りだったのか!」


「遺伝形質には顕性と潜性があります。この組み合わせによって隔世遺伝が現れます。静様にサッカーの才能が備わったのは先祖返りともいわれる隔世遺伝の影響かと思われます」



「プロジェクトGによって、「ゴッド」ことアダム(ロモス・瑠偉)の遺伝子を持つ人間の子供達を集めております。つまり我が社が求めているのは、


まだ存在しないこそがとなるわけです。


『ゲレ』をひいじいさんに持つ静様と、

『ゲレ』をひいひいじいさんに持つ御息女達を配合することで、奇跡の血量を持った『ゲレ』の3×4のインブリードが複数完成するわけです」


「スケールでか!」

 秘密結社の暗躍に頭が下がるばかりだった。

 そして、その一族である自分を呪った。

「決められたレール」これが俺ののがれられない宿命。


「そこで静様にお願いがございます。私目と一緒にGアカデミーにきて頂きとうございます。彼らを御自身の目で、たしかめて頂きたい所存であります」


「……仕方ないか。家業だもんな」

 断る選択肢がないことを俺は察した。

 大叔父さんの顔がほころぶ。



 サッカーの王様『ゲレ』

 その遺伝子を受け継ぐ3×4のインブリード11人。

 そんなチームを夢見る自分がいた。



 そうして俺は、話の長い大叔父さんが校長を務めるGアカデミーに入学する事となった。

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