二章 職業
シーフに先制点を奪われ0対1。
ハーフタイム。
「深井、あと1センチだけパスを脚元によせてくれないか?」
1センチ単位でパスを要求してくるのは
お前が1センチ早く動け!
そう思いつつ口をつぐむ。
英進は風貌だけならばイケメン「プリンス」の遺伝子かと噂される。彼はこだわりが強い。身につけるものすべてが黒。全身黒ずくめのスタイリング。黒装束だ。
そのこだわりはプレイにも表れる。
困るのがポジション取り。左サイドハーフの英進は角度にこだわる。ペナルティエリアの左斜め45度。
かつてイタリア代表のスーパースター、テル・ピエロが得意としたエリアでテル・ピエロゾーンと呼ばれる。
そのポジションにこだわるあまり英進はディフェンスをしない。そこを離れようとしない。
したがって左サイドを攻め込まれると、数的に手薄になりピンチを迎える。これがチームの弱点。
帰国子女の彼はドイツ仕込みのプレイスタイルだと豪語するが、甚だ迷惑な話だ。
「お前が正確なパスをくれれば、俺が決めてやるからよ!」
ファンタジーキャラでいえば防御力の低い黒魔道士。そのくせ、上から目線の物言い。お前がチームのガンだ。
チームの弱点はもう一つある。
黒魔道士の逆、右サイドハーフ。
彼が魅せる高速ドリブルは「イナズマ」由来といわれている。
そんな須定がなぜ弱点なのか?
彼はフィジカルが最弱。165センチ50キロ。サッカー選手にとって小柄なのは、さほど問題ではない。リオラル・メッシのように恵まれない体格でも世界を舞台に活躍する選手はたくさんいる。ただ総じてフィジカルが強い。須定のようにもやしっ子ではない。
彼は高速ドリブルという類い稀な武器を持ちながら当たり負ける。すぐに殺されるアサシン。
殺し屋ではなく、殺され屋。
後半戦。
案の定、アサシンは
追加点を許し0対2。2勝4敗。
ゲームのパーティ編成は戦士タイプでかためる。
回復薬をMAX持参してゴリ押し。
黒魔道士はHP低いし、MP計算するのがめんどくさい。
アサシン? 戦士の方が強くね?
何も考えずに力でねじ伏せる。
これが一番爽快。ゲームの醍醐味。
翌月におこなわれた公式戦七戦目も連敗を喫し、2勝5敗。
十回勝負において敗戦へのリーチがかかった。
チームが噛み合っていない。
勝者になるために、まず分析。
Sランク冒険者の成田。
警戒されているためにマークが厳しい。
成田へのパスコースを塞がれてしまう。
有翼人の真弥野。
空中戦は強いが地上戦では弱い。
ペガサスナイトか!
セットプレイなら戦力になる。
サイドハーフの御両人。
ここが使えないため成田を生かせない。
やはりチームの弱点はこの二人。
なるほど。
冷静にキャラ分析をおこなうとみえてくるものがある。まず、アサシン。当たり負けるなら、当たらない場所で使えば良い。
次に黒魔道士。
ディフェンスを怠るため左サイドを狙われる。守備は左サイドに重点を置く。つまり勝機は右サイドにある。川上だ。
川上に戦術を伝えた。
「さすが司令塔だな!」
司令塔。ポジション柄そういわれることが多い。
指示を出す人間を悪くいうヤツは「偉そう」「自己中」「自分本位」だとか口にする。支配されることを嫌う。
違う。みんなのことを一番に考えている。
支配じゃなく共存。
自分さえ良ければいい政治家と一緒にするな!
雲の上から物言う評論家と一緒にするな!
「自己中だな!」と批判するヤツは自分が中心にいたいヤツ。バカっていうヤツがバカと同じ原理。
チームメイトの理解者になるつもりはない。
理解者になってもらうつもりもない。
求められているものと、求めているものの公約数。そこだけに焦点をあてる。
ワンフォーオール・オールフォーワン。
ひとりはみんなのために、みんなはひとつの目的のために。団体競技の鉄則。
パスが欲しければくれてやる。
そのかわり、自らの足でパスコースを創りだせ。
ボランティアじゃない。Win Winだ。
「深井のファンタジー職はテイマーだな!」
川上が得意げに言った。
『テイマー』魔獣使い。
アニメでは最弱職として描かれることも多い。
いいじゃないか!
チームメイト達よ。
魔獣となって襲いかかれ!
♢♢♢
エイシンフラッシュ
東京優駿と天皇賞(秋)の優勝馬。見栄えする漆黒の馬体はグッドルッキングホースとして有名。
最高のキレ味を発揮できるのは一瞬しかなく、末脚の使いどころが難しい馬だった。日本競馬界の主流ではなく、独自路線の濃厚なドイツ血統を持つ馬でもあった。
ステイゴールド
400キロ前半の小さな馬。勝ち星に縁がなくシルバーコレクターと呼ばれていた。引退レースとして選ばれた香港ヴァーズでは強烈な差し脚で勝利。日本産、日本調教馬による初の海外G1制覇を成し遂げた。香港ヴァーズ G1を勝利したのは7歳の時。大器晩成の遅咲き馬だった。キャッチコピーは「愛さずにいられない」。
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