二章 カリキュラム
三年生に進級できたのは三十名。一クラス十五名の二クラス。入学時に六十名いた生徒は半分になっていた。
「深井は何月生まれ?」
退学者の備品が整理された広々とした教室で川上に尋ねられた。
「三月だけど……」
「ちょっと待ってね……。えっと三月生まれの人は、物事を冷静に考えられるタイプです。反面できないことに対して無謀にチャレンジをしようとは思いません。保守的なところがあるでしょう。だって! 当たってるじゃん!」
「占いなんて適当だろ!」
「いや、数字って意味があるんだよ」
「
川上は純真無垢に占いを信じていた。可愛いらしい顔も相まって、わんぱく坊主というより負けず嫌いな乙女、おてんば娘。そう表現したくなる。
「じゃあ、次、寿司占いやってみる?」
「寿司占いってなんだよ!?」
「三月生まれの人はイクラだって! 好きな人はとことん好き。嫌いな人は嫌い。お高くとまっている所があるでしょうだって!」
「それはもうただのイクラの説明じゃん!」
二人で談笑していると、勢いよく扉が開き、体がビクついた。
「オッス!」
今時、珍しいリーゼント。
彼の経歴は異色だった。サッカー未経験者。そんな人間までもが入学でき、さらに進級できる。サラブレッド育成機関。そうでなければ真弥野の存在は説明がつかなかった。
「俺なんかが進級できて、ええんかな?」
本人も理解はしているようだ。
続いてやってきたのは
「成田! 挨拶くらいしろ!」
無愛想に着席する成田の態度に腹を立てた真弥野が、イヤフォンを引き抜いた。
「何すんだよ! お前!」
感情の読み取れない無機質な目が瞬時に吊り上がり、その瞳に憎悪の炎を宿した。成田が鋭い眼光で睨みつける。
この二人は仲が悪い。
「朝から騒がしいねー!」
最後にやって来たのは
「美輪、こないだの進級テストの賭けは誰が勝ったんだよ?」
僕は真弥野と成田の気を逸らすべく、美輪に訊ねた。
「うん? あれか……。仲間うちだと尾栗の一人勝ちだったな」
面食らった。川上と顔を突き合わせて、思わずにやける。
尾栗!?
自信過剰なくせにあいつも結局、自分に保険かけてやがったのかよ!
「ああ、最後の最後にな。嬉しそうに金をせしめていったよ」
衝撃的な事実に、涙を返せと言いたくなった。とことん、転んでもただでは起きないやつだな。と、感心して
尾栗よ。この
自分のことだけは秘密主義か!
「あの暴力野郎。本来なら慰謝料請求するとこだけどな」
ゴブリンが
「さてと、次はどんなギャンブルを考案しようかな?」
美輪がそう言って不敵な笑みを振り撒いた。僕と川上はブンブンと顔を左右に振った。
成田はギャンブルの話には興味がないようで、頬杖をついて瞑想中。真弥野はスマホをいじりながら、外国のお菓子のような得体の知れない物を食べていた。とりあえず、一大事には至ることなく安堵する。
「全員、揃ってるか?」
担任の安田だ。イメージはかなり変わった。本人いわく、入学当初のパフォーマンスは「
安田から三年生のカリキュラムが発表された。一組と二組。クラス対抗戦。公式戦はひと月に一回。合計十回勝負。勝ち星が多いクラスのみが勝者として卒業できる。というものだった。この学校の理不尽さにはもう何があっても驚かない。
そしてユニフォームが配られた。考えれば公式戦に参加できないGアカデミーには、ユニフォームがなかった。常にジャージだった。久しぶりに、手に取るユニフォーム。白を基調としたデザインはまだ何色にも染まっていない。
真新しい匂いを思いっきり嗅いでみる。それだけで快感だった。滑らかな肌触り。袖を通しただけで、すでにトッププレイヤーかのような錯覚に
スポーツ少年にとって、ユニフォームはいかなる時でも特別な存在だった。
川上の占いをバカにしていた手前、大変いいにくいが、ユニフォームの他にもう一つ特別なものがある。
それは背番号の数字だ。
サッカーはピッチ上、11人対11人で行われる。 12番目の選手はサポーター。スタンドから後押しするサポーターに敬意を表して、背番号12番を選手につけないチームも多い。
数字には意味がある。
ゴールキーパーは1番。ディフェンダーは2〜5番。ミッドフィルダーは6〜10番。フォワードは9と11番。
そして、背番号10番がサッカーでは、エースナンバーとされている。世界を代表するスーパースター達が背負ったことで特別視されるようになったそうだ。執着するあまり車のナンバーや、住所の番地まで10にこだわる選手もいるらしい。
僕に手渡されたユニフォームには、背番号10が刻まれていた。
♢♢♢
2組 監督 安田
FW11 成田
FW9 真弥野
MF10 深井 最弱勇者
MF7 須定
MF8 英進
MF6 木関
DF5 川上 獣人族
DF4 中山
DF3 里乃
DF2 新山 ゴブリン
GK1 美輪 勝負師
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