失恋
神無月 風
失恋
多分、それなりに自信があったんだと思う。
高校に入学してから、友達に誘われた雑誌に応募して、読者モデルになって、『学校内一の美少女』なんて噂までいただいて。
だから、きっとOKをもらえるって思ってたんだ。
紫陽花が咲き乱れる学校の中庭の花壇に呼び出して、クラスメートの彼に「好きです。お付き合いしてください」と告げた。
校則から出て来ましたという感じの制服姿で、ちょっと冴えない感じの彼だけど、素敵な声をしていることを知っている。放送部の彼のパーソナリティー回は、私の友達の間でもそれなりに人気だ。
「ごめん。実は僕、家の都合で、来年、引っ越すんだ。編入試験の勉強が忙しいし、今は誰とも付き合う気はないんだ」
まさかの失恋決定。頭が真っ白になって、気がつくと泣き出していて、「本当にごめんね。ありがとう」とあの優しい声で言われたら、もうその場にいられなくて、逃げ出していた。
好きだった。放送部の声を聴いているだけで幸せだった。きっと「僕も好きだよ」って言ってくれるって勝手に思ってた。
一晩中、大泣きして、立ち直れずに、登校して。それなのに、彼の声は今日も流れてくる。
私達、まだ一年生なのに、来年、転校しちゃうんだ。もう声も聴けないんだ。
お弁当を食べる気も失せていたら、クラスメートがどよめいた。無意識にシャットアウトしていた放送部の映像を見ると、彼が「今日はちょっと変わった季節外れの選曲です。WHAM!で『LAST CHRISTMAS』」と話している。
流れてくるクリスマスソング。六月になんて奇妙な選曲。でも、EXILEのカバー曲しか知らなかった私にはちょっと新鮮な歌詞。失恋ソングだと思っていたのに、この歌詞の主人公は失恋に傷つきながらも、新しい恋を探している。
彼が転校したら、もっと素敵な人を見つけよう。でも、それまで、今はほんのちょっぴり泣かせて欲しい。おそらく彼からの私への最初で最後のメッセージに。
失恋 神無月 風 @misawo
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