第20話 波の乙女の秘密
散々ディスられている馬鹿ことオーグがいたのは街の外れだった。
城塞の外に出て街道が村や街と繋がる道。オーグは長閑な街道で精神を集中させていた。
(魔法は集中力……謙虚さと、想像力)
目を瞑り、平たい岩の上に腰掛けながら、五感を研ぎ澄ます。
メスガキエルフの長耳は、僅かな風の音さえ捉え、オーグは精神を極限状態にしていた。
何故そんなことをしているのか、オーグは強くなりたかった。
少年が勇者に憧れて修行するような甘い考えだったが、現実問題オーグは魔法使いとして半端過ぎる。
魔力は高く威力は高いが一発ネタの大魔法、威力を抑えてコントロールする訓練もしているが、まだ己のポテンシャルを引き出しきれてはいなかった。
もっと強くならなければ、リンやメルに見捨てられるじゃないかという恐怖もある。
リンやメルは必ずそんな弱音なんて否定するだろうが、今の彼女は怯えているのだ。
このエルフの身体の貧弱さも呪わしい。
身体を鍛えるにしてもスタミナが無く、元々の肉体とは持っている才能が違い過ぎるのだ。
ああもどかしい、もとより魔法の訓練など面倒で仕方がない。
よく食ってよく働く、筋肉は裏切らなかったのに。
エルフというには本当に偏屈だ。きっとこの身体の主も相当の自堕落だったのだろう。
オーグとは異なる傲慢さ、きっと似てはいるのだろう。
「ッ……はあ! 駄目、限界……っ」
オーグは極限の精神集中をとぎらせると、全身から汗を流した。
巧妙な魔法使いなら数日続けられるという瞑想も、今のオーグには一時間が限界だ。
いやこれでもオーグの短気さからすれば上出来だろう。
魔法使いにはこの集中力が必要とされる。
『空想』をより精細にイメージすることで、魔法はそれこそ幻想的な力になり得るのだから。
「この国の魔法使い、訓練方法が違いますね」
「その声……コールガか」
後ろから、ずっと息を殺して観察していたのは銀髪の女がいた。女は身長が高く、海竜のイヤリングをしている。
彼女コールガは、胸に手を当てると優しく微笑む。
「興味深いですわ。
コールガはベルナ族に伝わる紋章魔法というオーグとは異なる魔法を使うが、オーグから見て優れた魔法使いだ。
いや正しくは魔法戦士だろう。
身長が高く、手足の長い彼女の身体技術は戦士として見ても優秀で、オーグには眩しい存在だった。
魔法使いとしても、彼女は恐るべきことにエルフの認識能力を持ってして気配を隠しきっていた。
「コールガ、呼吸止めてた?」
「はい、
その勇敢な海の開拓者というのがまず分からんのだが、凄いスキルだ。
コールガは今のオーグよりも遥かに強いだろう。どれ位差があるのかは少し気になった。
「|魔女様は冒険者なのですよね?」
「あぁ、まぁ仲間と一緒にだが」
「羨ましいです。私は異国では一人ですので」
そういえばベルナ族は、ここから遥か遠くにある自然豊かな地からやってきたと言っていた。
どうしてコールガは危険な一人旅をしているのだろう?
「コールガ、お前の目的はなんだ?」
「……魔女様、それを知ったら、貴方は私と一蓮托生ですよ?」
妙な警告だな。オーグは眉を
コールガは唇に人差し指を当てると、怪しく微笑む。
まるで遊んでいるかのようだ。オーグは頭を搔くとコールガに言った。
「一蓮托生なら、お前は俺様の子分になるぜ?」
「子分? ふふ、魔女様が
「ああそうだ。それでも良いなら説明しな」
「やっぱり面白い人だわ……。いいわ魔女様になら教えてあげる。私が孤独な旅をしているのは、盗まれた物を探しているの」
「盗まれた物?」
コールガは真剣な顔で頷く。
「盗まれたのは
秘宝、その言葉を聞くだけでも盗賊の血は湧き出すな。
だがオーグはそれは顔に出さず、真面目に彼女の言葉を聞いた。
「私は海神の目がこの街にあると知りました」
「ちょっと待て、どうしてそれが分かる? 相当な距離だぞ?」
「クス、私には《誘う雨の海馬》がいるもの」
《
コールガはそんなケルピーの誘いによって、この城塞都市メメントに辿り着いたという。
「ならもう目の前じゃないか。どうしてすぐに取り返さない」
「ケルピーは大雑把にしか分からないの、動けば追えるのだけれど」
そうは問屋は降ろさない。コールガは残念という風に美人な顔を曇らせてしまった。
それにしても紋章魔法はユニークな魔法が多いな。
彼女が扱う魔法は高い跳躍をする《
いずれにしても独創的で、オーグの魔法とはなにもかも違う。
コールガの紋章魔法は一朝一夕では使えそうにないが、学ぶことは多そうだ。
「……おし、ならコールガはもう俺様の仲間だ。子分の為にもその秘宝捜索、協力するぜ!」
「うふふ、おかしな
しかしコールガは妙に落ち着いているな。
まるでこうなることも予測していたようだ。
まさか未来予知の紋章魔法まであるのだろうか。
運命は神様の悪戯というが、コールガの思考や感覚はやはり独特なのか。
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