第12話 第二世代MBTそろい踏み

 1965年を超えると主要国は続々と新型戦車をお披露目している。自国の威光を見せつけることはもちろんだが、海外輸出で小金稼ぎの機会を窺い、各国で特徴的な戦車が多かった。


「ソ連の戦車を破るに主要国の戦車は強力です。しかし、AMX-30やレオパルト、M60と同等の性能を有した。それが日本のType21(Type22)戦車です。これは旧式化しながらも改修を繰り返す。Type9を使い慣れた軍隊に丁度良い。アジア圏ではType9が現役であり、将来的な更新に留まりますが、スウェーデンやオランダ、ベルギーが挙って導入を表明した」


 シンクタンクの研究員がスラスラと述べる。東側というソ連が自国と衛星国にT-54/T-55とT-62を配備した。T-62はT-55の系譜の後継者と登場する。115mm滑腔砲を装備して西側の105mmL7砲に対抗した。東側のソ連戦車を真正面から撃破できる新型戦車の需要が高まる。


「日本戦車の姿勢制御装置や自動装填装置、優秀な機動性と高い総合性能を発揮したことが表向きの理由でしょう。しかし、政治的な理由もあった」


「レオパルトやパットン、AMX-30に勝てる?」


「それは戦い方次第ですよ。各国の戦車は各国の思想が反映されます。どれが強い、どれが弱い。それは決められません。日本戦車はユニークで注目を集めやすいことは事実です」


 第二次世界大戦が終わってから直ぐに登場した中戦車は旧式化した。冷戦の時代に突入すると、東西で装備の共通化が図られ、砲弾から機銃弾まで統一の嵐が吹き荒れる。戦車に関しても可能な限りで統一したい。主要国は共同開発やライセンス生産をチラつかせた。


 イギリスは既存のセンチュリオン後期型をそのままに新型のチーフテンを開発する。チーフテンは新型だが「重装甲で高火力」を志向した重戦車の色が濃い。イギリスは当時主流の「軽装甲で高機動」の志向に異を唱えた。巡航戦車の失敗から重戦車的な思想を打ち出す。海外輸出はセンチュリオンの後期型で間に合った。チーフテンは対ソを念頭に置いた西ドイツ駐留軍に集中させる。


 フランスは嘗ての敵国で完敗を喫した西ドイツと手を組んだ。M47/M48パットンを置き換える新型戦車の共同開発を試みる。両国は装甲を捨てて機動力に富ませることで共通した。しかし、フランスは最終的に色々な事情から自国のAMX-30を採用する。本戦車は105mm砲を装備するが、自国のCN-105-F1であり、105mmL7は蹴った。この戦車砲の特徴として特異な対戦車榴弾のG弾を使用する。G弾は極めて強力な対戦車榴弾と宣伝された。後にイスラエルのM51スーパーシャーマンが採用する。これはまた別の話のため、今回は省略させてもらう。


 西ドイツは敗戦国と非常に厳しい制約を課された。遂に解放の時が訪れる。三号と四号からパンターとティーガーなど最強戦車軍団を揃えた超名門だ。フランスとの共同開発が拗れ、西ドイツ独自の開発になると、高機動で高火力の志向を体現させる。それがレオパルト(後にレオパルト1)だ。最速65km/hの高機動に105mmL7の高火力の攻走を両立する。


「時期の早かった日本製はカナダ、オーストラリア、ベルギー、オランダで導入されました。スウェーデンは姿勢制御装置や自動装填装置の参考に導入している。フランスとドイツを差し置いて日本製が台頭した。それは衝撃を以て受け止められる」


「海軍装備や空軍装備なら納得できるが?」


「その通りです。日本陸軍は精強に間違いありません。しかし、如何せん、海軍国家としてのイメージが強いのです。海軍と陸軍から独立した空軍も同様に。伝説の栗林将軍や山下将軍の勇名は轟いています。どうしても、華やかな海軍や空軍が注目されてしまった」


「にもかかわらず?」


「はい。日本製が欧米製を押しのけた。これは歴史的な出来事ですよ」


 アメリカも負けじとM60を繰り出したが、所詮はM48の改良型で本命でなく、次期主力戦車までの中継ぎ投手だった。エンジンをガソリンからディーゼルに変更して主砲を105mmL7に換装する。M48と大きく変わらなかった。次期主力に期待されるアメリカと西ドイツ共同開発のMBT-70が完成すれば退くだろう。しかし、MBT-70計画はアメリカらしい強権の振り回しで悲しい結末を迎えた。


「変にアメリカ製やイギリス製、フランス製、西ドイツ製を買うよりも日本製の方が信頼できた。確かに、一度売ったら終わりじゃない。兵士や技術者をセットにして送り、現地で不都合があれば速やかに改善し、将来的な独自の改修にも快く対応する」


「そういうわけです。戦車自体の高性能に限らなかった。日本の行動が確固たる信頼を与えるに相応しい」


 日本は九式戦車改の旧式化から後継の戦車を開発する。伝統的な自動装填装置はそのままに第二次世界大戦の戦訓を取り入れた。軽装甲と高機動に高火力の志向に沿うが、装甲厚に頼らない防御の取り組みを怠らず、高機動だけでなく姿勢制御装置を有する。それが二一式戦車と二二式戦車だ。どちらも同一の戦車だが、前者は試製戦車の先行量産型であり、後者は先行量産型に小改良を加えた正規量産型である。


 最たる特徴は姿勢制御装置に収束した。具体的には油気圧式サスペンションを指す。この装置は車体を上下に動かしたり、前後左右に傾けたりすることが可能だ。上下と前後左右の姿勢制御を活かし、日本のあらゆる地形に対応している。第二次世界大戦で使用されたハルダウン戦術を円滑に行えた。油気圧式サスペンションは攻撃よりも防御の思想が強い。日本軍は一切の侵略行為を放棄した。自国と同盟国を守る方針から誕生する。


 エンジンは720馬力ディーゼルを採用した。最高速度自体はレオパルトやAMX-30に劣るが瞬発力に優れる。加速力は第三世代戦車と遜色なく、キビキビと動き回り、敵弾を回避することが意識された。油気圧式サスペンションの合わせ技により、悪路の走破性に優れるが、悪路走破性の高さは意外と馬鹿にならない。


「余談ですが、主砲が105mmでもL7でないことはフランスと似ている。しかし、砲弾には互換性が確保された」


「L7砲は強力と聞いていますが」


「もちろん。あれは傑作と言って差し支えありません」


 肝心の主砲は国産の105mm戦車砲を備えた。当初はイギリスのオードナンス105mmL7が有力候補になるが国産に拘る。実際は自動装填装置との兼ね合いだった。砲弾自体はL7砲と互換性を持たせて西側戦車に準ずる。105mmの自動装填装置は困難な道を走破して実用化に成功した。リボルバー式弾倉から徹甲弾や榴弾、発煙弾が装填される。しかし、大口径ゆえに負担が大きく、故障し易い弱点もあり、自動装填装置を取り除くべきの声は少なくない。なお、海外輸出型は自動装填装置をオミットした廉価版が大半を占めた。人力の手動装填に拘る声は海外も同様であり、自動装填装置をオミットし、価格を収めて調達し易くしている。これは「モンキーモデル」と似通った。


 現時点では、ベルギーとオランダ、カナダ、オーストラリアが導入する。カナダとオーストラリアは第二次世界大戦で日本軍と共闘した。日本軍装備の中古品を譲渡されて新品を輸入している。アメリカ製やイギリス製も使用を継続したが、太平洋を挟んだ日本製の信頼は厚く、既存の九式戦車改を二一式戦車に更新することは必然だ。


 ベルギーとオランダは一から検討を始めて、レオパルトやAMX-30などを挙げたが、国民感情も含めて日本製の導入を決定する。ドイツ製は第二次世界大戦の遺恨から難しかった。フランス製は日本製に性能で負けている。さらに、日本製は現地の独自改修や将来的な近代化改修もセットで販売してきた。他国を圧倒するサービス精神が強みと一枚上手と言える。


 スウェーデンは本格的な配備ではなく技術を参考にする目的で少数を購入した。姿勢制御装置と自動装填装置は自国製のStrv.103に繋がっている。しかし、Strv.103は特異過ぎたためか、第三世代以降はドイツ製と日本製の競争を選択した。


「この新型戦車を購入できない中小国にはTyoe9の更なる改修を提示した。世界のスタンダードは日本製になるかもしれませんね」


続く


〇第二世代MBT

フランス:AMX-30

ドイツ:レオパルト1

イギリス:チーフテン

※ヴィッカースMBTは海外輸出

日本:九式戦車改(近代化改修型)

   二一式試製戦車/二二式戦車

アメリカ:M60

ソ連;T-62,T-64

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