第9話 仏蘭白のNATO離反と日本への急接近

 1960年代に入るとソ連戦車に対抗することが急務になった。スターリン死後の独立運動の弾圧でT-54/T-55とIS-3が投入される。欧米諸国はソ連と陸地で接するため、ソ連戦車を撃破可能な戦車を開発した。ただし、NATO内で弾薬を共通化させることになり、主要国は戦車砲だけは同じ物とすることに合意している。


 ここで、主砲第一候補に浮上したのは、イギリス・ヴィッカース社製105mmL7戦車砲だった。傑作砲の20ポンド砲の内側を削って105mmに拡大されている。従来の20ポンド砲向けの砲塔でも、十分に搭載可能なコンパクトを誇った。砲身の内側を削っているため、初期型は耐久性に難を生じる。しかし、老練なヴィッカース社は見事に正規量産型で解決した。


 素晴らしい性能の105mmL7砲は瞬く間にNATO主要国に普及する。あのアメリカでさえM60パットンの主砲に採用した。西ドイツは戦車大国の意地を見せてレオパルト1を開発するがL7砲を採用する。スウェーデンは待ち伏せ特化のStrv.103に搭載した。イギリスは一先ずセンチュリオンMk-5で試し、レオパルト1に対抗して輸出の強化を試みている。


 なお、既にセンチュリオンなど、NATO装備が淘汰されたオーストラリア、ニュージーランド、カナダは日本製を積極的に導入した。直接的にソ連と接しないため、ご近所さんの日本を選択する。


 さらに、日本に対するL7砲導入に関して打診があったが、日本は国産を重視して丁寧に辞退した。九式戦車改は自動装填装置付き90mm砲である。105mmの口径では自動装填装置が対応できなかった。もちろん、105mm砲の時代に遅れないため、弾薬の互換性を得た国産105mm砲自動装填装置付きを急がせる。


 このようにNATO内では対ソを念頭に置き、様々な装備の開発と共通化が進められた。これを快く思わないのがフランスやオランダ、ベルギーである。彼らはアメリカとイギリスは「嘗ての栄光を取り戻そう」と威張っていると認識した。第二次世界大戦でイギリスはドイツの電撃侵攻に敗走し、反撃するどころか、おめおめと逃げている。アメリカは孤立主義を掲げて介入を渋り。イギリスが窮地に陥ってから参戦した。


 どうも、信頼できない。


 お互いに近場である仏・蘭・白(ベルギーのこと)は三国協定を結んだ。三国で硬い土台を固めてから、事実上のNATO離反を意味する、日本と安全保障条約を締結する。


 記者会見の場で三国の代表者と岸信介首相はガッチリと握手を交わした。


「この安全保障条約は相互に技術協力を行う内容でもあります。先端技術を融通し合い、皆に旨味のある開発を目指しました」


 三国と日本の間で技術交流の活発化を図り兵器開発を促進した。フランスはドイツ占領期に技術の空白が生じている。日本とイギリスに亡命して細々と進めたが、戦後の大規模な波に乗り切れなかった。


「特に戦車分野は激動の時代です。世界に追いつき・追い越せは、まったく過去の話であります。今は世界を包み込む時代でしょう」


 アメリカはM60、イギリスはセンチュリオン、日本は九式戦車(改)と第一世代MBTが揃い踏みである。しかし、ソ連の脅威から第二世代に転換し始めた。現に西ドイツのレオパルト1を世に送り出す。


 フランスはM60やレオパルト1導入を蹴って国産戦車を目指した。ARL-44やAMX-50と重戦車を試作するも失敗に終わり、歩兵が携行する対戦車擲弾筒、第一世代対戦車誘導弾を回避する高機動を目標に定める。そして、AMX-30が計画されるが単独では厳しい上にNATOの圧力を避けなければならなかった。


 したがって、反NATOで利害を一致させたオランダ、ベルギーと共に日本を頼る。主に日仏で最新兵器を共同開発し、オランダとベルギーに割安で売り渡した。その後は一緒に合同軍事演習を行って練度を高め合う。三国の日本連携は意外と簡単だ。なぜなら、フランスはパナール社の装輪装甲車を売り、ベルギーはFN社が拳銃と自動小銃に参画し、オランダは海軍の艦艇を導入している。既存のパイプがあって強化するだけで済むのだ。


 日本も九式戦車改の後継となる第二世代戦車、五式自動小銃の後継、対戦車誘導弾の改良が山積している。三国が大陸である以上は陸軍装備が大半を占めたが、海軍装備も最新への刷新と並行し、中古の圧縮というセールを開催したかった。


 かくして、先行来日したフランス軍関係者は、富士演習場に集結する。


 仲良く並んで日本製を見定めた。


~再びの富士演習場~


「試製二一式戦車と二〇式装軌装甲車です。装甲車は拡張性を重視し、重機関銃の増設、対戦車誘導弾の追加など、任務に応じて幅広く対応しました。アメリカ軍のM113に比べ、兵員輸送数は劣ります。しかし、均質圧延装甲板を張って一定の乗員保護が図られました」


「対戦車誘導弾はゲリラ戦を想定しているのか」


「はい。我々は地理的にゲリラ戦が適合しました。輸出型は要望に応える十分な余裕があります」


「そうだな。改造ではない当初から対戦車戦闘を考えた、専用のミサイル装甲車が欲しい」


 厳重な警備が敷かれる富士演習場に日本陸軍の第二世代MBTの試製二一式戦車、汎用装甲車の二〇式装軌装甲車が置かれる。前者は西ドイツのレオパルト1に対抗するMBTでまたの機会に回した。後者は機械化歩兵用の装甲車であり、歩兵が戦車隊に随伴できる機動力を付与する。


 アメリカ軍がM113を開発したのと一緒で、兵員輸送車としては防御力と不整地走破能力に優れた。M113はアルミ製車体のため対戦車擲弾筒や誘導弾、地雷に弱い代わりに軽量で空挺降下や水上航行できる。


 二〇式は均質圧延装甲で防御力は若干勝り、小銃弾や至近弾から中の乗員を守った。エンジンは民間トラック用ディーゼルを有し高い信頼性を得る。同時に大量生産のコストダウンに成功した。しかし、特筆すべきは拡張性の高さだろう。車体に12.7mm重機関銃を増設して歩兵掃討と対空防御を磨いたり、歩兵が対戦車無反動砲を構えたり、最新の一九式対戦車誘導弾を備えたり、等々の改造が用意された。


「対戦車誘導弾はスティック操作の手動誘導です。できる限り姿を晒さないこと。これが大前提になりますが」


「その通り。とても悔やまれるよ」


 対戦車は対戦車砲から対戦車無反動砲を経て対戦車誘導弾に至る。成形炸薬の弾頭に誘導機能を追加した。現在はフランス軍がSS.10対戦車ミサイルを開発し、日本軍も同誘導弾を参考に一九式対戦車誘導弾を開発する。どちらも、第一世代の無線指令誘導によって敵戦車まで導かれた。兵士が潜望鏡などを用いて敵戦車を目視で捕捉する。そして、ジョイスティックをガチャガチャ動かして誘導した。


 完全な撃ちっ放しを目指している。残念ながら、かなりの技術とコストが求められて実用化は遠かった。兵士が目視で誘導するため戦果は練度に大きく左右される。仮に熟練者でも自身に危険が及ぶ場合は中断を余儀なくされた。これを満足に運用するのは攻撃よりも防御に適している。


 もっとも、上手く使えば戦車を出さないで敵戦車を破壊できた。快速で一撃離脱戦法を採る装甲車に搭載され、発射機と誘導装置は簡単な改造で装甲車に搭載可能だが、フランス軍は自国が陸続きである。彼らは本格的な対戦車ミサイル搭載装甲車を要求した。


 彼らの要望に応じて陸軍とメーカーは改善を心がける。


 フランスの大地に日本成分が混じった兵器が登場する日は近かった。


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