第3話 日本MBTの始祖九式戦車

~前書き~

 既に3話投稿していてスピード凄いなと思われたかもしれませんが、実は『大日本帝国必勝論』で没にした下書きを基にして書いています。よって、没の下書きの在庫が尽きれば投稿は遅くなり、かつ完全に別の新作を検討中であるので、更に投稿が遅くなるかもしれません。


~本編~


 第二次世界大戦において、戦車はドイツ機甲師団やソ連機甲師団に代表されるが、飛躍的な進化を遂げて戦いの主役と化した。パンツァーファウストやバズーカなど歩兵携行の対戦車火器が登場しても、快速による電撃的な攻撃や分厚い装甲による突破で活躍の場が多い。


 重戦車、中戦車、軽戦車、自走砲と多種多様な戦車が登場した。しかし、戦後になると軍縮の流れが到来し効率化が求められる。ソ連だけは大国らしくIS重戦車を押し立て、T-54中戦車を見せつけるなど欧米を脅かした。アメリカは対抗意識からM-47パットンの改良と並行し、120mm砲を装備した重戦車(M103やT34)の開発を急いがせる。


 独ソに隠れて快速機甲師団で名を馳せた日本陸軍も圧縮を図った。日本陸軍の戦車運用の基本原則は快速中戦車隊の機動戦、自走砲部隊の機動砲撃の2本立てから為る。ドイツ機甲師団を打ち破るため、例外的に少数の対戦車重自走砲、自走臼砲が制作されるが主力にはならなかった。


 ソ連侵攻迎撃でも快速戦車の有用性が確認される。よって、戦時中における最終型の五式重戦車チリの中戦車化に着手した。チリは半自動装填装置付き90mm砲に重装甲のため重量が嵩む。大重量に対応可能な大馬力ガソリンエンジンと変速機が無いため、やむを得ない、一旦は重戦車に置いてチトを主力中戦車に据え続けた。


 チリの中戦車化の過程でイギリスの最新巡航戦車の話を聞く。チリの改造では頭打ちが否めず互角に並ぶのも厳しいと判断し、日本陸軍は国内外の各メーカーを集結させて新型中戦車の開発を指示した。


【富士演習場】


 静岡県の富士には国内最大級の演習場が存在する。戦車の試験もここで行われるため、殆どの試作車が富士で各試験を受けた。そんな広大な演習場では1km先の的に対し砲撃を繰り返す車両が見られる。


「こいつでイギリスの新型とパットンに勝てるのか」


「実際に戦ってみないと分かりません。しかし、自分としてはチリよりも動かし易いので満足です」


「我々は高機動で高火力を求めたんです。米英の戦車とは根本的に異なるので」


 上官らしい男が諫められて「すまん、すまん」と謝った。自らの誤りを認められる上官はありがたい。彼らの前で的に正確な砲撃を繰り返すのは、日本陸軍次期主力中戦車の『九式戦車』だ。昔はチハやチトなど副名称が追加されるが、戦車運用を大転換した都合で省略される。


 具体的には、重戦車・中戦車・軽戦車の廃止と代わる主力戦車策定を提示した。第二次世界大戦では三種の戦車と自走砲、その他が駆け回り、バリエーションが豊富なことは傍から見て面白い。


 しかし、現場にかかる整備と補給の負担は増大した。日本陸軍は統制や車体の流用で抑え込んでいる。それでも、対戦車重自走砲が登場するなど混乱が生じた。現在は重戦車を開発しなくても、中戦車隊の機動戦術で封殺でき、軽戦車も装輪装甲車が偵察と観測を担う。敢えて重戦車と軽戦車を作らなくても良いと考えられ、中戦車一本に絞り込み後の「MBT」の思想が出現した。


 自走砲は対戦車自走砲のみ廃止するが、カノン砲を搭載した本来の意味の自走砲は継続される。中戦車の車体流用は有効な上にカノン砲に機動力を付与できる点は廃れなかった。


「半自動装填装置があると楽です。全自動の装填装置があれば、装填手を省けますが」


「まだ無理だ。90mm砲の全自動装填装置は試作機しか完成していない」


「75mm砲でも大苦戦しました。そう簡単には作れませんね」


「ひとまず、九式はイギリスとアメリカの新型に並べる。それでいいだろう」


 日本MBTの始祖は九式中戦車であるが、チリの正当進化系と言える。


 以下に主な諸元を示した。


〇九式戦車

 五式中戦車チリの改良計画と新型主力戦車計画を合体させた、後の第一世代MBTに振り分けられる。日本戦車の特徴を引き継ぎ、高機動・高火力を優先し、装甲は必要最低限の範囲で収まった。センチュリオン巡航戦車とパットンシリーズと並ぶが、T-54と真っ向勝負を挑める唯一の戦車と評される。一定数がインドに輸出されて印パ紛争でパットンを撃ち破り、イスラエルへ中期型が輸出されると、第二次、第三次中東戦争でソ連製戦車を一方的に撃破した。


車体長:7.2m

全幅:3.4m

全高:2.5m(機銃を含めない)

重量:約47t

主砲:65口径90mm戦車砲

副砲:12.7mm機銃1門  

   7,7mm機銃1門

エンジン:空冷V型12気筒ディーゼル800馬力

最高速度:50km/h

懸架装置:改良型日本式

装甲:砲塔100mm

   車体75mm(傾斜)

乗員:4名


以上


 本車は英米の新型戦車をライバルに捉えて所々が似通う。ただし、主砲の半自動装填装置は日本独自の装備だった。五式重戦車チリで90mm砲の半自動装填装置に成功し、日本兵には重労働な装填作業の負担を半減させる。前線の兵士からは喜ばれると同時に不満も噴出した。半自動装填装置は故障が多く修理できると雖も戦闘中に壊れては堪らない。よって、九式戦車では最新型に更新されており、小型軽量化と信頼性の向上が図られた。


 今更だが、開発には三菱を中心に据えて日本に帰化した元ヴィッカース社員、ルノー社員も加わる。彼らは伝手を活かしイギリスとアメリカの新型の情報を手に入れてリークした。現時点で伝わっているのはアメリカのM47パットン、イギリスのセンチュリオンがある。


 前者はM26パーシング重戦車を中戦車に直したM46の改良型だ。強力な90mm砲に大馬力ガソリンエンジンのいかにもアメリカらしい戦車である。世界では90mm級の火砲が主流となり、従来の75mm砲は軽戦車や装輪装甲車に移行した。後にM48へ改造されたが、T-54の脅威に対しては力不足と判断される。次期主力戦車までの中継ぎ役になった。


 後者はイギリス独自の巡航戦車であり、17ポンド砲装備の50t級戦車と計画される。開発に遅延が相次いだ結果に現行のMk-3では17ポンド砲の後継者20ポンド砲(84mm砲)を搭載した。最高速度は遅いが堅実な設計が甲を奏し、時代が進むにつれて改良を繰り返す。そして、長期にわたって主力戦車の座に就き最良の戦車と称賛された。


 2種の強力なライバルに対抗するには90mm砲の火力、半自動装填装置、スイスイ動く高機動が必要だろう。対戦車兵器の技術が向上して1発でも被弾すればお終いのため、装甲を犠牲にして機動力を確保することで、いわゆる「当たらなければ、どうということはない」を実現した。


「余ったチトがあんまり売れないんで、新式の150mm榴弾砲を装備した自走砲を生産しています。150mm機動自走砲と九式が揃った際には大陸の防衛はカチンコチンに固まります」


「米軍も野砲の自走砲化が有力であることに気づいた。ただ、欲をかいてNATO内の標準装備にしようと試みたのはいただけん。あれは、いくらなんでもやり過ぎだ。もっとも、我々はアジア太平洋条約機構で共通化させた。人のことは言えない」


「そう言いますが、あっちは最新装備ばかりです。我々は旧式を譲渡して徐々に近代化するお手伝いをしております。強権を振り回すのとは全然違うことを指摘させていただきます」


「広大な富士演習場だから言えることだ。戻ったら、絶対に言うなよ」


 九式戦車の配備に伴って旧式化したチトは淘汰されると思われた。一部は中華民国陸軍やインド陸軍で運用が続けられる。しかし、それでも大半は主力戦車から降りて有効活用が模索された。ソ連軍にアメリカ軍も大口径砲の自走砲化を進めている状況から、元祖の日本は国産の150mm榴弾砲と150mmカノン砲を搭載した自走砲に改造する。


 榴弾砲型は箱型のオープントップ式戦闘室に装備し、弾薬運搬車なくとも単体で機動砲撃を可能とした。ただし、榴弾砲のため射程距離はカノン砲に劣り、機動砲撃戦術に特化する。カノン砲型は長砲身の150mm砲を剥きだしの車体に装備し、弾薬運搬車と行動しなければ砲撃できなかった。代わりに、射程距離で勝るため車体を固定したアウトレンジ砲撃に充当される。


 日本本土に限らないで中華民国や友好関係を構築した国々への輸出も想定した。すでにソ連は自国の影響力のある通称「東側」に製品を売却したり、ライセンス生産を許可したりして浸透させている。アメリカも負けじとNATO内で自国製品を標準化しようと試みたが、NATOは自力で兵器を生産できる国が多いため、当然ながら反発する声が各地で聞かれた。これはアメリカが尊大すぎることが指摘できる。特に反米感情の強いフランスとオランダ、ベルギーはアメリカを蹴った。アメリカ製でなく日本製の導入や共同開発を持ちかける。


「大規模な戦争はしばらく起こらないが、俺たちはアジアと太平洋の守護者である。これを忘れずに励めよ」


「はい。九式があれば、どんな戦車も敵じゃありません」


 力強い宣言だが、実際に九式戦車はセンチュリオンと並ぶMBTとして、アジアから太平洋へ爆発的に普及することになることを未だ知らなかった。

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