孤高な二人は友達になりたい
佐波彗/ファンタジア文庫
第1話
もし全校生徒を一箇所に集めて、『この学校で一番人気があって文句なしに可愛い女の子は誰か?』というテーマで投票させたとしたら、一番になるのは絶対にあたしだ。
理梨が現れると同時、周囲の生徒は爆発的な盛り上がりを見せた。
「榁姫さんだ!」
「まるで絵画から飛び出してきたような美しさ! まさに歩く芸術作品だ!」
「あの美しさを全世界に広めたいけど……勝手に撮ってSNSに上げるのは犯罪に近いから心の中のいいねボタンを無限に押し続けるわー!」
(ふふっ、今日も小鳥のさえずりが心地良いわ)
どこぞのアイドルか、というレベルの称賛を浴びながらも、理梨は涼しい顔で長い髪を払う。
たったそれだけで、女子は頬を染め立ち尽くし、男子は恍惚の表情で胸を抑える。
この私立小鳥遊高校では、榁姫理梨は美の象徴として知られていた。
サラサラとなびく長い髪は、榁姫の血を引く女性が代々受け継いでいる銀色だ。肌は白く、目はいかにも気が強そうにつり上がっている。
150センチ半ばをちょっと下回る小柄な背丈だが、胸は大きく目立つ。理梨にとっては自慢にはならず、どんくさいイメージが着くことを恐れて、ちょっとしたコンプレックスだった。
学ランの男子と違って、女子の制服は赤いブレザーに黒いスカートという色合いで、少々目立つ。理梨は華やかな容姿と髪色のおかげで、制服に存在感を食われることはない。
朝からド派手な注目を集め、まるでこの世の春を謳歌しているかのようだけれど、理梨はこの熱狂の最中でも満足していなかった。
(あっ、宇都山! もう! あいつさえいなければ……!)
先を歩く、すらっとした長身の少女の背中を見つけて、こっそり舌打ちをしてしまう。
全校生徒から圧倒的に支持されていたい理梨にとって、その少女は、自分の一番を阻む宿敵と言っていい存在だった。
その日、理梨のクラスでは、二クラス合同の体育の授業があった。
いつものように見学を決め込む理梨は、他のみんなと一緒に体育館の壁沿いに待機するのを嫌がり、一人だけ二階のキャットウォークでふんぞり返っている。
理梨が見つめる先では、バスケットボールの試合が行われている。
そんな中、一人だけ際立った活躍をする生徒がいた。
その長身の少女は、圧倒的な身のこなしで、いとも簡単にゴールを決める。
すると体育館は割れんばかりの黄色い歓声で満たされた。
彼女は声援を一身に浴びつつも、凛々しくも涼しい顔で何事もなかったかのように自陣へと戻っていく。
「ぐぬぬ、宇都山愛海~! また目立って!」
悔しがる理梨は、みんなの視線を独り占めする少女に毒づいた。
「あいつさえいなければ、あたしがこの学校で一番の人気者なのに~!」
理梨が嫉妬する長身少女の名前は、
体育館中の女子の声援を一身に集めるだけあって、人目を引く美しさがあった。
黒い髪は肩口まで伸びた程度の短めの長さで、青色のインナーカラーが入っている。笑う姿が想像できないくらい愛想は悪いものの、顔のパーツは整っていて、目も口元も意志の強さを示すようなかたちをしているから、むすっと黙り込んでいても絵になった。
特にスタイルの良さが目立つ。手足が長くスマートな体型は、小柄で胸が目立つ理梨のコンプレックスを刺激した。
理梨が悔しがっていると、自陣に戻ろうとしていた愛海が、ちらりとこちらを見上げてくる。
「な、なによ、やる気!?」
気合で負けてなるものか、と理梨は胸の前で腕を組んで偉そうにしてみる。
愛海は特に反応することなく、すっと視線をそらす。
バスケに戻った愛海は、味方からのパスを受け取ると、豪快でありながら優雅なダンクシュートを決めて、まるで決勝戦で大逆転勝利を収めたような大声援を引き出した。
怒り狂っているのは、理梨だけだ。
「ヤなヤツ! あのダンクは見学してるあたしに対する当てつけだわ!」
愛海の真意は不明ながらも、理梨は憤慨して地団駄を踏むのだった。
理梨の隣は愛海の席なのだが、愛海はいつも休み時間になると教室からいなくなる。
愛海が席に戻ってくるのは、いつも授業が始まるギリギリだ。
(何してるのか知らないけど、まあ、どうだっていいわ)
それでも無関心ではいられない理梨は、横目でちらちらと愛海の様子をうかがう。
理梨は愛海を一方的にライバル視しているのだが、理梨と比べると、愛海の人気は局所的だ。理梨のようないかにもな美少女ではないし、よくも悪くもクールに徹しているところが人を選ぶ。理梨は逆だ。すぐに感情を表に出す。
極端に口数が少ない愛海は、教室内で誰かと会話をする様子はなく、不良っぽい尖った雰囲気があるせいか、気軽に話しかけられることもなかった。
今も、クラスメイトの一人が、愛海を遠巻きに眺めながらも、隣にいる友達と顔を見合わせながら盛り上がるだけで、話しかけられずにいるようだ。
(確かあの子、
ニコリともせず他人とつるもうとしない愛海は、「誰にも媚びず群れないクールな女の子」として見られているようで、同性からの支持が強かった。その中性的な容姿と雰囲気から、ガチ恋勢も相当数存在すると聞く。
(なんでこいつだけ、褒められてばっかなのよ)
理梨はファンの分母が大きいだけに、アンチも存在した。
不平等を恨んだ理梨は、希少な愛海アンチの一人として、隣席から憎々しげな視線を送るのだった。
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