死霊術師と一緒にゾンビパニックに巻き込まれたんだけど質問ある?

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」


 蘇芳は息せき切って走っていた。走るには胸に抱えたトウモロコシが邪魔だが、手放すわけにもいかない。なにせ二日ぶりの大事な食料だ。

 有刺鉄線の下の隙間を抜けるように地面を這い、後ろに迫る三匹のゾンビをやり過ごす。だが痛覚の残っていない彼らは血が滲むのを気にした様子もなく有刺鉄線を乗り越えると、蘇芳を仲間にしようとその腕を伸ばした。


「やめろ……っ! やめろよ!」


 蘇芳のまだ短い腕が傷だらけの手に捉えられ、その柔らかな肉を喰らおうとゾンビの口が大きく開けられる。

 だが、その瞬間のことだった。パンと破裂音がして蘇芳を捕らえたゾンビの頭に穴が空き、血を吹き出しながら倒れたのは。


「え……?」


 何が起こったか分からず呆けている間に、二匹目が同じように地面に倒れ伏す。そして残る一匹の頭を、フルフェイスのヘルメットを被った人物が思いっきり小銃の柄で殴り倒した。


「……大丈夫? 少年」

「あ……う、うん」


 ヘルメットの中から聞こえてきたくぐもった声は、女性のものだった。蘇芳は差し出された手を、おずおずと握り返す。


 その瞬間。パチリと静電気が弾けるような衝撃が走った。


「君……」


 女性は蘇芳を引き起こすと、ヘルメットを脱ぎ捨てる。その中身は二十代半ばくらいの、綺麗な女性だった。


「名前は?」

「え、と。天里あまさと……天里 蘇芳すおう、ですけど……」


 蘇芳がそう名乗った瞬間、女性は彼をぐいと引っ張る。

 そして気づいた時には、思い切り抱きしめられていた。


「あ、あの……?」

「やっと……見つけた……!」


 すごくいい匂いと柔らかな感触に戸惑う蘇芳に、彼女は小さくつぶやく。


「あの、助けてくださって、ありがとうございます。お姉さんは……?」

「わたしは……セナ。瀬名 灯里」


 顔を上げた女性……灯里の顔を見て、蘇芳はぎょっとする。

 彼女の瞳から、ボロボロと大粒の涙が溢れていたからだ。


「大丈夫ですか? どこか痛いんですか?」


 慌てる蘇芳に灯里は首を振り……そして、ふとなにかを思いついたように口を開いた。


「これは、別に信じなくていいんだけどね。わたしは──」

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死霊術師と一緒にゾンビパニックに巻き込まれたんだけど、質問ある? 石之宮カント/ファンタジア文庫 @fantasia

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