第23話 シュティレ大河
「ふぅ、やっと着いた」
テルルに着いたのは日も落ちかけた頃、沈む太陽の明かりと、もうすぐ訪れる暗闇の色が混じり合い、空は綺麗なグラデーションを描いていた。
水流の街テルル。
大きくもないが小さくもないこの街は、一本の大きな川を挟み込むようにして造られている。
川の名前はシュティレ大河。
何本もの川が上流で合流し、街の中心を流れていく。
そして下流で再び何本もの川に分かれ、あちこちに散らばっていく。
シュティレ大河の水深はとても深く、最深部となれば五十メートルほどにもなるとかならないとか。
その深さゆえか、このシュティレ大河では他に見られない珍しい魚達が非常に多く生息している。
川の深さによる独自の生態系を作り出しているのではないか、というのが一般的な見解だ。
ゆえにこの街の名物はその魚達を使った料理やマスコット、キーホルダーなどだ。
こんな時間からではのんびりと散策も出来ないので、どこか適当に宿を取って観光は明日に回そう。
宿を探してぶらぶらと街を歩く僕。
観光客も多いと聞いたけれど、さすがにこの時間ではあまり人の通りも無い。
「お、あったあった……ん?」
宿屋の看板を見つけ、さっそく中に入ろうとしたのだが、宿屋の隣の路地裏で何やら男女が揉めているようだった。
「やめて下さい……!」
「いいじゃねぇか。大して客も来てないんだろ?」
「そっそれとこれとは話が別です! とにかくやめて下さい!」
おおっと、これは首を突っ込んでは駄目なやつだろうか。
夜の路地裏、男女の揉め事、拒否する女に食い下がる男。
もしかしたら彼彼女は知り合い同士であり、ちょっとすれ違いがあって言い合いをしているだけかもしれない。
そんな所に僕が図々しく首を突っ込んでも「お前誰だ」になってしまうだろう。
ここは見て見ぬ振りをするべき……。
「やめて下さい!」
と、女が一際声を上げ、同時にパァン! という破裂音が一発路地裏と僕の耳に響いた。
「ってぇな……! せっかく売上に貢献してやろうってぇこの俺の優しさを!」
じろじろ見てしまって申し訳ないのだけど、女が男を平手打ち、それに激昂した男。
男は自分の懐をまさぐり……おおっと、それは駄目じゃないか?
「ひっ……! やめ、やめて……!」
男の手には小振りのナイフが握られ、その切先が女のお胸に突き当てられている。
彼は人として越えてはいけないラインを越えてしまった。
女に叩かれたからといってナイフを出すのは男として絶対駄目でしょうよ。
大人げないならぬ、男げない。
「どうかしましたか?」
なるべく男を刺激しないよう、まるで今あなた達のトラブルを見て、思わず声をかけてしまったんですよーという体を装って声をかけた。
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