第22話 お達者で

 ちなみに生み出した物は、全部ミスリル合金鋼であり、僕が魔法で生み出せる一番硬い金属だ。

 鉱石魔法は万能ではないようで、僕の知っている(正確に言えば僕が見て触った事のある)鉱石系しか生み出せないようだった。

 金属としては鉄、鋼鉄、そしてミスリル合金鋼、鋼やモリブデン鋼、その他王宮で使われていた金属系は全て生み出す事が出来た。

 だが辞典に載っているだけで、僕が知らない金属や宝石などは生み出せなかった。

 エーテルタングステン鋼や、世界で最も硬い金属であるドラゴタイト合金、次点で硬いダイヤタイマイ合金鋼などなど。

 それと、銀食器や銀の燭台、金細工なんかは馴染みが深いので、結構な精度で生み出す事が出来た。

 だからなんだっていうような話だが、僕からしてみれば出来る事の全部が楽しいのだ。

 自分は何が出来て何が出来ないのか、それを理解し、把握し、順応する事が大事だ、と僕は思う。

 それに楽しむって良い事だと思うし。


「ふわぁ……ありゃ、もうこんな遅いのか。明日も早いし、そろそろ寝よう」


 外から聞こえるフクロウと虫の声、これを聴きながら寝ると実によく眠れる。

 寝る準備――といっても魔法で出した物を片付けるだけなのだが、床に散乱するこれらは全て僕の意思で消す事が可能なので、ゲージやらキャノンやらスパイクボールなんかは消しておく。

 鞭と糸と網は何かしら使うかもなので、一応バッグにしまっておいた。

 魔力の減りは微々たるものだけれど、久しぶりに魔力を使ったので気怠さと眠気はある。

 なので僕はさっさとベッドに潜り込んで目を閉じた。



「おやすみなさい」




   ■





 次の日。


「フローさん、お世話になりました」

「いいんだよ! アタシもなんだか息子が帰ってきたような気がしてねぇ、とっても嬉しかったし楽しかったよ! また近くに来る事があったら遊びにおいで」

「はい。あの味気の無いスープ、また飲ませてくださいね」

「アンタそれ嫌味で言ってんのかい?」


 途端にフローの顔が険しくなる。

 まずい事を言ってしまったらしい。


「ちっ違いますよ! そんな事ないです!」


 慌ててフォローしてみると、フローは一瞬で笑顔になった。


「あっはっはっは! 冗談だよ! 味気がないのは確かさ! あんなんで良ければたくさんお飲み!」

「はい、あ、あとこれ、お礼と言ったら少ないかもですが……」

「ん? なんだい?」


 そう言って僕は、ポケットから昨日魔法で出した小粒のオニキスを取り出し、フローに手渡した。


「なんだい? この黒いのは」


 フローはオニキスを知らないらしかった。

 指先で摘み、しげしげと眺めている。


「それはオニキスと言う宝石です。その大きさでは大した額にはならないでしょうけれど、町で売ればお金になります」

「ひぇ! こんな真っ黒な宝石があるのかい? こんな村でこんな生活してると、宝石なんてこれっぽっちも縁が無いからねぇ……でも良いのかい? 宝石なんて貰わなくてもアタシゃ……」

「いいんです。一宿一飯の御恩ということで」

「そうかい……? じゃありがたく貰っとくよ。大事にするさ」


 少し困り顔だったフローだが、にっこりと微笑んでくれた。

 言いこそしなかったが、ヘチマと石鹸も譲ってもらっている。

 その代金も込みでのオニキスだった。


「喜んで貰えて良かったです。それではご健勝で」

「ごけん……なんだって?」

「あぁ、いえ、お元気で」

「アンタこそ元気でやんな!」

「はい」


 こうして僕はフローや村人達に大きく手を振りながらるるイオの村を後にし、次の目的地であるテルルの街へと足を向けた。

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