第24話 けしからんね

「あぁ!? 何でもねぇ! 消えろ!」

「あ、あぁ……た、たす、たすけ……!」

「てめぇは黙ってろ!」


 と再びパァン! という破裂音。

 今度は男が助けを求めようとした女の頬を平手打ち。

 けしからん。


「あの、ご婦人に手をあげるのはよろしくありませんよ、男としての器の小ささを見せつけているようなものですからして、はい」

「はぁ? てめぇ舐めてんのか!」


 男は僕の言葉に対し、口をワナワナと振るわせ、女の胸に当てていたナイフをこちらに向ける。

 赤い顔を見ると、どうやら少し酒に酔っているようだ。


「いえ、そんなつもりはありませんよ。ただ無抵抗なご婦人をナイフで脅し、あまつさえ平手打ちなど、男として終わってるなぁと思っただけでして……」

「てめぇ! ぶっ殺す!」


 僕の言葉を最後まで聞いたか聞かずか、男はナイフを振り上げて僕に襲いかかってきた。


「いけない!」


 焦った様子の女の声が聞こえるが、酔った人間の振り上げたナイフなど脅威でもなんでもない。

 アリエスとの組手に明け暮れていた僕からすれば、赤子の手を捻るようなものだ。

 ナイフの切先が僕に届く前に、男の手首を掴み、その足を払ってしまえばいい。


「ぐえっ!」


 掴んだ手首を捻り、倒れた男の背中を押さえ付けて肩と手首の関節を決める。

 倒れた拍子に頭をぶつけないようにと、気遣いまでしてあげた。


「酔っ払ってナイフを使うなんて、下手をすれば転んで自分を傷付けてしまう事だってある。とっても危ないですよ」


 男は関節を決められ、手から持っていたナイフが地面に落ちた。

 僕はそれを空いている方の手で取り、男の手の届かない所に投げ捨てた。


「いででで! くそ! 離せ!」

「わかりました」


 申し出に従い男を解放する。


「くそ! いきなりなんなんだテメェは!」


 解放するなり男はふらつきながら立ち上がり、とんでもない事を言い出す始末。


「いきなり切り掛かってきたのは貴方の方ですよ?」

「うるせぇ!」

「なんでしょうか、まだやりますか? 貴方がどの程度の強さかは存じ上げませんが、酔っ払っている状態で勝てるほど僕は弱くないつもりですが」

「く……! 覚えてやがれ!」


 男は吐き捨てるように言うと、ふらつきながら街中に消えて行った。

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